イオンVSセブン&アイ 株主優待が示す2社の「大きな差」とは

企業が自社の株主に向けて、自社商品やサービスなどをプレゼントする「株主優待」。直近では多くの上場小売業が株主優待を新設、あるいは拡充する動きが見られている。株主優待の新設・拡充は経営にどのような影響をもたらすのだろうか。

Business man thinking about balance of Japanese yen and dollars

株主優待とは何か

株主優待は、株主還元のひとつ。配当が株式の保有株数によって決まるのに対し、株主優待の場合は、一定の株式数以上(たとえば100株以上など)を保有していればその権利を得られるというもの。

「100株以上の株主」が条件になっている株主優待の場合、100株保有の人でも、1万株を持っている人でも優待内容は同じになる。保有株式数によって差をつけない株主優待は機関投資家などからは「公平な利益還元」にはならないという見方をされることもあるが、投資資金の限られた個人にとっては、株主優待が配当以上の魅力に映ることも少なくない。

そのため個人株主を増やしたいと考えている上場企業が株主優待制度を導入するケースは多く、とくに、一個人にとって、日常的にその会社のサービスや商品に接していることもあって、(あくまでも個人の主観という前提はつくものの)良し悪しがわかりやすい。消費財メーカーや流通小売業の中には優待制度を積極的にアピールするところもある。

上場企業は現在、3000社以上あり、そのうち4割程度が株主優待を導入。小売業態に限れば導入企業は約8割にのぼっている。しかしながら小売業を代表する2大グループ、イオン(千葉県)とセブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)の株主優待への取り組みは対照的だ。

イオンが株主優待制度を導入したのは1985年。同社では1974年9月の株式上場(当時はジャスコ)から50周年を記念して、2024年に特設サイト「株式上場50周年」を設けている。

同サイトでは「1985年には、お客さまであり株主さまである『お客さま株主』という概念を取り入れ、お買物を通じて事業活動をご理解いただくべく株主優待制度を導入しました」と示したうえで、「2002年には、より多くのお客さまに経営に参画いただくため単元株式数を変更(1000株から100株に変更)。翌年、お客さま株主が1万人を超え、その後2007年に10万人、2015年に60万人、2023年には90万人以上のお客さま株主の皆さまにイオンの経営に参画いただいております」と、多くの株主に支えられて成長してきたことを強く訴えている。

それに対しセブン&アイが株主優待の導入を発表したのは、2024年4月10日のこと。導入の目的として「当社株式への投資の魅力を高め、より多くの株主様に中長期的に保有いただくとともに、株主の皆様に、当社グループ店舗でのお買い物を通じて、事業に対するご理解をより一層深め、当社グループの更なるファンになっていただくことを目的として、株主優待制度を導入することといたしました」と、リリースで明らかにしている。

図表① イオンとセブン&アイの株主優待の比較

イオンとセブン&アイ、株主優待の内容は?

イオンとセブン&アイ、それぞれの株主優待内容を見てみよう。

イオンのメーンの内容は100株以上の所有で「株主さまご優待カード(オーナーズカード)」が発行され、「イオン」「マックスバリュ」「イオンスーパーセンター」などの店頭で買い物をする際にこのカードを提示しておくと、半年ごとの買い上げ金額合計に対し持株数に応じた返金率で還元されるというもの(100株の場合、3%)だ。

そのほかに、毎月20日、30日の「お客さま感謝デー(5%割引特典)」にはオーナーズカードの提示でさらなる還元特典、イオンイーハート、イオンシネマ、スポーツオーソリティ、イオンペットなどでは、割引金額あるいは優待料金での利用が可能になる。そして2024年4月には新たな特典も追加された(詳細は表参照)。

一方、セブン&アイは100株以上の保有で、保有株数のランクに応じて、セブン&アイ共通商品券が提供されるというもの(100株の場合、2000円分)で、保有期間が3年以上になると、500円分が追加される。

店舗を利用すればするほど返金額が多くなるという仕組みのイオンに対し、セブン&アイは対象店舗を利用するしないにかかわらず優待として提供されるメリットは変わらない。ここでは、どちらが個人投資家から魅力的に見えるか、ファン度が強くなる(推したい気持ちが強くなる)のはどちらか、といったことには言及しない。株主に対する考え方や思いは、本音の部分では、それぞれの会社で違うからだ。

ただ、少なくとも現時点で言えるのは、イオンにはすでに90万人近い個人株主がおり、しかも増加傾向にある(5期前に比べて1割以上も増加)のに対し、セブン&アイの場合は6万人強の個人株主にとどまり、減少傾向にある(5期前比では2割以上も減少)という事実だ。こうした現実があるからこそ、40年近くの遅れで、セブン&アイは株主優待の導入に踏み切ったと考えることもできる。

株主優待の新設・拡充が相次ぐ

2023年以降で、株主優待制度を新設したり、その内容を拡充したという小売業態企業は、イオン、セブン&アイを含め、10社以上ある。

新設企業は、良品計画(2023年4月公表)、サンクゼール(2023年8月公表)、マルヨシセンター(2023年9月公表)、ジェーソン(2024年1月公表)、セブン&アイ(2024年4月公表)の5社。公表時以降の株主数が明らかになっていないセブン&アイ以外の4社は、いずれも公表後に個人株主数を増やしている。サンクゼールは1期前から3倍超、マルヨシセンターは同約4倍、ジェーソンは同約2.3倍になった。もともと母数の大きい良品計画は4%程度の増加率だが、5000人増になっている。

拡充企業の変更内容はさまざまだ。

あまり売買を繰り返さない個人の保有を意識した長期保有(1年以上、3年以上など)時の優待内容の拡充(イオン北海道、エディオン、平和堂)もあれば、しまむらやスギホールディングスのように、株式分割後にも従来と同じ保有株数に応じて優待を実施するケースもある(分割された分、優待内容も拡大する)。

2024年1月より、NISA制度(少額投資非課税制度)が拡充された(新NISA)。今年に入ってからの株価上昇はその影響が大きいと言われており、また長期的な資産形成目的で新NISAを活用する層が現役世代にも広がりつつある。そうしたタイミングでの株主優待の新設、拡充には、自らのファン層(=買い物利用客)との関係をよりグリップしたいという思いもあるのだろうか。

図表②-1 株主優待新設企業

※2023年以降、小売業のみ

図表②-2 主な株主優待拡充企業

※公表順

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