レジェンドが徹底解説!男子体操エース橋本大輝が抱える「唯一の懸念材料」と新星・岡慎之助の潜在能力とは【パリ五輪メダル有力競技 ココが見どころ】

橋本(C)共同通信社

【パリ五輪メダル有力競技 ココが見どころ】体操

メダルの常連競技、体操ニッポン。レジェンド内村航平引退後もその強さは健在で、東京五輪では橋本大輝(22)が個人総合と鉄棒で金メダルを獲得。女子では村上茉愛が種目別ゆかで日本女子史上初の表彰台(銅)に上がるなど、計5個のメダルを獲得した。

村上が現役を引退した女子は、全員が10代で臨む初の五輪となる。男女ともにライバルとなるのは中国と米国。一方で、強豪ロシアはウクライナ侵攻の影響で五輪大陸予選を欠場したため、五輪出場の資格を失った。勢力図に変化は表れるのか。1988年ソウル、92年バルセロナ大会で計4つのメダルを獲得した池谷幸雄氏に話を聞いた。今回は【男子個人編】。

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一番気になるのが男子のエース、橋本選手のケガ(右手中指の突き指)の状態です。指はほとんど曲がらないとかで、強化合宿では十分な練習ができていないと聞きます。確かに無理をしてケガが悪化すれば五輪自体に出られなくなる。僕もバルセロナ五輪(1992年)の1カ月前にぎっくり腰になって、本番まで怖くてほとんど練習できなかった。めちゃくちゃ焦りましたね。

鉄棒もつり輪も、どの種目も指先の感覚が欠かせない。ほんのちょっとの指の切り傷も致命傷になりかねません。逆に万全じゃない方が、気合が入りすぎずに抑えられるパターンもあるんですが、指先の違和感は非常にやりにくい。

僕は右手の人さし指が折れたまま全日本ジュニアの試合に出たこともありました。出発の前日に痛めて、「痛いなあ、これは絶対に突き指じゃないな」と思いながらテーピングで固めて強行出場。ろくに鉄棒も握れない状態でした。3日間“放置”して大会終了後に病院へ行くと、医者には「我慢強い人ですね」と言われました。そのせいで、指が曲がったままくっついてしまいました。五輪や試合の前にケガがあると、そうやってその場しのぎの処置をするしかない。年を重ねれば重ねるほど、そういう場面は増えていきます。

もし、橋本が万全であれば、個人総合は金メダルの可能性が高い。ですが、最大のライバルである中国の張博恒選手がパリの代表メンバーに内定しました。

2021年東京五輪には出場していませんが、同年10月の世界選手権では橋本を抑えて金メダルを獲得。今年4月の選考会(全日本選手権)で橋本が出した決勝6種目の合計87.965点は、張が昨年の杭州アジア大会で出した89.299点と1点以上の差がある。演技中に両腕がけいれんするアクシデントがあったとはいえ、今も指に不安を抱えている状態。張も手首に古傷がありますが、表彰台の一番上は熾烈なデッドヒートになりそうです。

最年少の岡慎之助選手(20)にも期待がかかりますが、ここでも中国の壁が立ちはだかりそうです。岡が金を狙う種目別平行棒ですが、中国には平行棒のスペシャリスト、鄒敬園選手がいる。東京五輪では驚異の16点台を叩き出して金メダルを獲得。今回も完成度に磨きをかけて五輪に臨むでしょう。

岡はセンスがあるのに加え、基礎がしっかりとできている「内村航平タイプ」。着地がキレイなところ、技の正確性が高いところが似ている。演技に汚さがなく丁寧。内村くんも基礎をしっかりと固めて、高校2年生ごろから急に優勝するようになって目立つようになった。地道に基礎を積み上げていたから、ジュニアの中では埋もれていたんです。2年前に右膝前十字靱帯断裂を経験してからの復活。以前から「天才」といわれていたんですが、肝心なところでケガをして代表になれずにいた。ようやくかなった大舞台でどんな演技を見せてくれるか注目です。(【男子団体&女子編】につづく)

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▽池谷幸雄(いけたに・ゆきお) 1970年、東京都府中市出身。1988年、18歳でソウル五輪に出場し、団体総合で銅、ゆかで銅を獲得。92年のバルセロナ五輪では団体総合で銅、ゆかで銀。現役引退後はタレント活動のほか、体操教室を設立。東京五輪で銅を獲得した村上茉愛がかつて所属していた。現在は全日本ジュニア体操クラブ連盟専務理事として後進の育成に力を注ぐかたわら、プロゴルファーを目指す。

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