普段の“ほんわか”はどこへ…思わず「ゾッとする」国民的アニメの最恐ホラー回

てんとう虫コミックス『ドラえもん』(小学館)第1巻・書影より

昭和から令和と時代を超えて愛され続けてきた国民的アニメの数々。親子数世代にわたって視聴してきた人も多いだろう。

2024年8月9日には、シリーズ31作目となる『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』が公開される。今作は、太古から蘇った恐竜が展示されている「ディノズアイランド」が舞台の冒険アクション。愛犬・シロと小さな恐竜・ナナの友情、ハプニングに挑むカスカベ防衛隊の活躍など、見どころも盛りだくさんだ。

同映画をはじめ、国民的アニメは基本的に子どもも安心して見られるほのぼのエピソードが多い。しかし、時にゾクゾクするホラーエピソードが描かれ視聴者を驚かせることがある。

■王道ホラー多し!子どもにトラウマを与えた『クレヨンしんちゃん』

たとえば『クレヨンしんちゃん』では、「クレヨンホラー劇場」や「カスカベ都市伝説シリーズ」といったホラーに振り切ったエピソードが多い。印象的なのが1997年放送の「恐怖の幼稚園だゾ」だろう。

夏祭りで登園したしんのすけ、風間くん、ネネちゃん。マサオくんがまつざか先生とともに園につくとなぜか誰もおらず、通常の教室が一つ増えている。教室に入るとドアが閉まり、暗闇の中でマサオくんが消え、次はトイレでネネちゃんが消えてしまう。しかも、便器の中から彼女の泣き声が聞こえてくる……。

声をかき消すように水が流れると、今度は天井から石化した生徒や園長たちが現れるが、トドメはまつざか先生。風間くんが先生に触れると突如豹変し、恐ろしい形相と声で風間くんの髪を掴み、「お前も皆と一緒に石膏にしてやろうかぁ」と迫ってくるのである。

叫んだ風間くんはベッドで目が覚める。そう、これはすべて彼の夢。しかし、手の中には石膏があり、その後、夢と全く同じ展開が待ち受けていたのだった。

同時放送の「呪いのフランス人形だゾ」もクオリティの高いホラー回だ。これは、ひろしが会社の同僚からいわくつきのフランス人形をもらうという話。後日、同僚から呪いの話を聞いたひろしがみさえに伝えるも、ひまわりが人形を気に入ってしまい離さない。

焦ったみさえとしんのすけが人形を強引に取ろうとすると、人形が突然しゃべりだし、「人間はみんな嘘つきだ。最初は大事にしてくれるがすぐに飽きて目もくれなくなる」と恨み節を語ってしんのすけのおもちゃで二人を踏みつぶそうとする。そこでみさえが目を覚まし、夢オチが確定するのだが、次の瞬間ゴミ捨て場が映り、そこにはあの人形が……。

しんちゃんの世界観とは一味違う恐怖を味わえるこのエピソード、全編うす暗い雰囲気の中話が進み、暗闇に浮かび上がる人形の顔も妙にリアルで恐ろしい。視聴者の子どもにとっては、おもちゃや人形を大切にしようという教訓にもなったことだろう。

■「人間製造機」に「かげがり」…意外に怖い話が多い原作の『ドラえもん』

『ドラえもん』では、オカルト的な怖さではなく道具の使い方を誤ったがために起こる恐怖展開が多い。印象的なのが「人間製造機」のエピソード。原作コミックスにも掲載されており、過去に2度に渡ってアニメが放送されている(2009年には「「大あばれ!のび太の赤ちゃん」というタイトルで放送)。

「人間を作る」というこの道具には超能力を使う凶暴なミュータントが誕生するバグがあり、未来では彼らが暴走する大事件が起こったため販売中止となっていた。材料が鉛筆やマッチなどの身近な物で代用可能なのも怖いが、「そもそもなぜ人間を作る道具が?」と根本的なところから恐怖を感じる。

ドラえもんが返品のために出しておくと、のび太が例のごとくいたずらし、ミュータントを作ってしまう。生まれたミュータントは旧作のアニメでは緑色の肌をした赤ちゃんのような見た目で、ドラえもんを殴ったりしずかちゃんを超能力で殺そうとしたりと大暴れし、のび太は震え上がってしまう。逆再生時計で時を戻して事なきを得るが、「人外の者が人間を追い詰める」という設定はいつの時代もゾクゾクしてしまう。

「かげがり」も、インパクトが強いストーリーだった。ある日、パパに頼まれた草むしりをサボるためにドラえもんを頼ったのび太。ドラえもんは「かげきりばさみ」を出し、30分限定でのび太の影を切り離した。

この道具は影を切り取って動かせる便利なものだが、時間内に本体に戻さないと自我を持ち始め、最終的には乗っ取られてしまうという危険をはらんでいる。が、のび太は約束の時間を超えて影を小間使いしてしまう。

真っ黒だった影は次第にのび太の容姿になって言葉を話しだし、「モウスグイレカワレルゾ。」と恐ろしい発言をする。ドラえもんは機転を利かし、ママの影にのび太の影を捕まえてもらうのだった。

浸食されて段々と黒くなっていくのび太本体がジワジワと恐怖感を煽ったこのエピソード。雨が降っていてママの影が作れなかったらどうなっていたのかと考えると恐ろしい。影が濃くなっていく、夏にピッタリのホラー回だ。

国民的アニメは通常回がほんわかしているからこそ、時折描かれるホラーエピソードのインパクトが強くなる。どの回もBGMや色調をダークに変えてオチまでしっかり作り込んでいるため、いつもとは違う緊張感とゾクゾク感が味わえるものばかりだ。

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