【社説】イラン大統領に改革派 核合意の再建、今こそ好機だ

 イラン大統領選は、改革派で元保健相のペゼシュキアン氏が当選を果たした。

 欧米と対立する一方、新興国の枠組み「BRICS」に加盟するなど存在感を増す中東の大国。ライシ大統領が5月に事故死したことを受けた選挙戦では、後を継ぐ保守強硬派が有利とする予想を覆した。次期大統領が公約通り、機能不全となっている欧米との「核合意」再建をはじめ、協調的な外交路線への転換を表明した意味は重い。

 イランは明らかに行き詰まっていた。核開発などを理由とする経済制裁でインフレが加速し、失業率も高まった。その不満や民主化への動きを封じ込める強権的な手法が目につき、例えば女性が髪を覆う「ヒジャブ」着用に関する抗議デモを力で弾圧した。改革派の大統領を選んだ背景には社会の閉塞(へいそく)感があろう。

 ただ外交路線の転換は簡単ではない。イランでは大統領の権限はさほど重くなく、全ての決定権は最高指導者のハメネイ師が握る。従来の方針踏襲を促す意向も既に伝えられる。しかし変わらないなら国民が納得するだろうか。

 核開発を巡る関係国との協議が急がれる。イランは表向き「平和利用」と言いつつ、核兵器を持つ野望があるのではないか―。米国などが抱いてきた疑念に対してまともに対応せず、その結果、制裁を招いて国民を苦しめた。その教訓を踏まえるべきだ。

 イランに欧米への不信感が強いのは分かる。自国の核開発を制限し、見返りに欧米が経済制裁を解除する。その合意が欧米など6カ国との間でなされたのは2015年だ。しかし米オバマ政権時代の外交成果を否定したいトランプ政権が一方的に離脱し、制裁が再開された経緯がある。

 バイデン政権下では曲がりなりにも核協議の再建が模索されたが、停滞したままだ。対米強硬路線のライシ氏が大統領に21年に就任してから核開発を加速し、保有量を増やしたウランは核兵器の手前まで濃縮度を高めたとされる。

 そうした中で、敵対するイスラエルとの関係はパレスチナ自治区ガザを巡って一段と緊迫化し、4月には直接攻撃し合う事態に陥った。事実上の核保有国であるイスラエルとの対立が、仮にイランの核保有に結び付くとどうなるのか。「イランが持てばわれわれも持つ」と口にするサウジアラビアが追随するなら、悪夢のような核保有の連鎖が中東で起きてしまう。しかし、今なら食い止められる。

 米国はペゼシュキアン氏の外交姿勢に冷ややかな見方をしているようだ。反米を鮮明にしたイランがロシアに接近し、ウクライナとの戦争に無人機などを提供したことへの不信もあるのだろう。ただ、このままでいいはずはない。

 米大統領選でトランプ氏の復活が現実味を帯び、場合によってはイランへのさらなる強硬姿勢が生まれる恐れもある。今こそイランの伝統的友好国である日本の出番があるはずだ。米国に一定の譲歩を促し、核合意再建の仲介役を積極的に果たすことで新大統領の公約を後押ししたい。

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