女優・柚希礼音「これまでみなさまに頼っていたのだなと痛感」ミュージカル『REON JACK5』で届けたいファンへの愛と感謝の気持ち

柚希礼音 撮影/有坂政晴

歴史ある宝塚歌劇団において、トップスターの座を6年にも渡り務めた柚希礼音。その華のある男役の姿は、いまも語り継がれている。宝塚退団後は、ミュージカルやコンサートを中心に幅広い役柄に挑戦。ファンを魅了し続ける当代きってのスター、柚希礼音の人生の転機とは?

言葉に詰まることがなく、テンポよく取材に答えてくれた柚希さん。こちらの「つらかったことはありましたか? 」という質問に対しても、「すごく思い当たるようなことはなかった」と答えた。しかし、思い出したように柚希さんが語り出した。

「宝塚時代は、何度も“お芝居や歌に向いていないかも……”って思って、周りにも相談したりしました。そういうときって、だいたい叱られていて、“できないかもしれない……”って感じているときですよね。だからトップになるまでは、ずっとネガティブな気持ちもありましたし、落ち込んだりもしていました。
世間や周りからはトップまでの道も順風満帆だねって言われたりしましたが、自分自身としてはぜんぜん、きっと周りの方々も、私ができていなかったのを見て“なんとかしなければ”と力になってくれたのが大きいです」

目の前のことに精一杯向き合うことで、次につながっていった

「柚希さんのような男役を目指す俳優もいたのではないですか」という問いかけには、はにかんでこう答えた。

「そう思ってくれる子がいるなんて、本当に嬉しく幸せなことです。自分自身は昔から、“どのような男役になりたいですか? “っていう質問をされるのがすごく苦手で……。自分ではどんな男役が良いのかわからなかったですね。だから、新人公演も主役をいただいた作品もそうですが、これまでずっと目の前のことを一生懸命やっていたら、次につながってきたという感じでした。
いまも、”どんな女優さんになりたいですか“って聞かれるのですが、ステキで面白そうな役ができたりすると嬉しくて、一生懸命に取り組んでいるだけなんですよね」

宝塚在団中に行ったコンサートが、いまのソロコンサート『REON JACK』につながっていった。

「それまでお芝居とショーしか知らない世界で生きてきたのに、“3時間のコンサートで自分の魅力を出し切ってください”って言われて、なにをしたら良いのかわからないところから始まりました。それまでの、お芝居で役になりきったり、ショーでこういうふうにやってほしいと言われるのとは違って、自分の本当にやりたいことを出していくということを考えて、『REON!!』コンサートは始まっています」

宝塚の共演者とともにパワーアップした『REON JACK5』を届ける

自身の名前のついた『REON JACK』。柚希さんが表現したいと思っている、すべてを詰め込んでいる。今回の『REON JACK5』では、加藤和樹さん、黒羽麻璃央さん、西川貴教さん、夢咲ねねさん、井上芳雄さん、大貫勇輔さんという多彩なゲストが華を添える。

「打ち合わせも全部参加し、セットリストはもちろん、衣装やセットも自分の意見を伝えています。これまでの芸歴25周年という歩んできた道のりを見せながらも、これからも続いていく姿も表現できればと思っています」

印象的なタイトルの『REON JACK』だが、どのような意味が込められているのだろうか。

「『REON JACK』はお客さまの心をジャックする(=乗っ取る)という意味で『1』の演出の稲葉先生がつけてくださいました。だからこそ、いろいろな面を見せていきたいですね。日ごろの感謝の気持ちを、パフォーマンスを通じて愛としてお届けしたいです。
これまでの『2』『3』『4』では、モンスター級のダンサーの方々に出てもらってきましたが、今回は芸歴25周年ということで、『1』の雰囲気も含ませようと思い、宝塚で共演してきた星組のメンバー4人(汐月しゅう、天寿光希、麻央侑希、綾凰華)とともにパフォーマンスをお見せします。もちろんバリバリに踊って歌ってもらいたいと思います!」

これまでのコロナ禍において、コンサートが思うようにできずに歯がゆい思いを抱えていた。それだけに、今回の『REON JACK5』にかける思いは強い。

「『REON JACK4』の開催は、コロナ禍だった。お客さまは声が出せない状況だったので、声援の代わりに音の鳴るグッズなどで応援してくれていました。コロナ禍前は、MCのときもいつもみなさんが助け舟を出してくれていたのですが、それがなかったことで“あぁ、MCでこれまでずっとファンのみなさまに頼っていたのだな”って痛感しました。
でもいま思えば、コロナ禍でもあれだけファンの方と愛のキャッチボールができたことって、すごいことだった。あの形は、コロナ禍でしかできないコンサートだったって思います。それを経て、ファンの方も声出しOKになったので、『REON JACK5』はすごいお祭りになるんじゃないかな(笑)って期待しています」

『REON JACK』に対して、嬉しそうに語り始めた柚希さん。その姿には舞台への意気込みを感じた。

柚希礼音 撮影/有坂政晴

柚希礼音(ゆずき・れおん)
大阪府出身。俳優。1999年85期生として宝塚に入団。初舞台後、星組に配属。新人公演や主演を重ね、‘09年に星組トップスターに就任。6年に渡りトップスターを務めた。’15年5月に退団後も、ミュージカルやコンサートなど精力的に活動。第30回松尾芸能新人賞、第65回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第37回菊田一夫演劇賞を受賞。退団後の主な出演舞台に『COME FROM AWAY』、『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』『マタ・ハリ』など。‘24年8月には、今年で開催5回目を迎える『REON JACK5』の公演を控えている。

© 株式会社双葉社