元宝塚スター・柚希礼音「中期的に活動していくために心も体も大事に」年齢とともに変化、自分ファーストな生き方

柚希礼音 撮影/有坂政晴

歴史ある宝塚歌劇団において、トップスターの座を6年にも渡り務めた柚希礼音。その華のある男役の姿は、いまも語り継がれている。宝塚退団後は、ミュージカルやコンサートを中心に幅広い役柄に挑戦。ファンを魅了し続ける当代きってのスター、柚希礼音の人生の転機とは?

宝塚退団後は、ミュージカルや舞台などで活躍している柚希さん。自身のキャリアの中で、『REON JACK』とは、どのような場なのだろうか。

「これまでも数年間隔で開催していました。芸歴25周年のときに、絶対に『REON JACK』を開催したいと思っていたので、ディナーショーの開催を24周年で行いました。私にとって『REON JACK』は、ライフワークとして先々までずっと続けていきたい舞台。
これまでもミュージカルやお芝居など色々と出させていただいていますが、やっぱり『REON JACK』でしか出せない表現もありますしね。私の原点はダンス。『REON JACK』はすごく踊ります! ほかの作品でもダンスはありますが、ここまで踊るのは『REON JACK』だけですね」

『REON JACK』はコンサートなので、柚希さんの歌声も存分に楽しめる。見どころをお聞きしたところ、声を弾ませながら答えてくれた。

「歌も、『REON JACK』のために作った楽曲があるので、たくさん披露したいなと。もちろん私を振り返るうえで欠かすことのできない、宝塚時代の楽曲も歌う予定です。そして、本当に素晴らしいゲストの皆さまに出ていただくので、コラボをするのも楽しみです」

目標達成のコツは「描かないこと」

ひたすら一生懸命に努力を重ねた宝塚時代と比べると、いまはモチベーションに変化はあるのだろうか。

「宝塚のときは、寝なくてもやる! というぐらい体育会系の部分がありましたが、いまは、だんだんと自分の身体を労わりながらコンディションに気を付けつつ、やるようになってきました」

柚希さんに、これまでの活動を振り返ってもらったが、一度も「つらい」や「辞めたい」という言葉が出てこなかった。それだけ、目の前のことに邁進していたという。

「宝塚時代は、トップとしてのゴールに向かってずっと走り抜けてきた。でもこれからは、自分でゴールを決めない限りは、ずっといまの自分と向き合いながら頑張り続けていかなければならない。若かったころの短距離走ではなくて、もう少し中期的に活動していくために心も体も大事にするようしています」

いつまでも変わらずアグレッシブなステージを見せてくれる柚希さん。今後はどのような展望を抱いているのか。

「今後の展望とか、長期的に目標にしていることはないですね。目の前のことに全力で取り組んでいれば、それがまた次につながっていくと思っているので。だから、トップになったときも、周りから“これは思い描いてきた道ですか? “って聞かれたこともあったのですが、まったくそうではなかったんですよね。
宝塚時代は、目の前にある目標に自分の実力があまりにも届かな過ぎて、いつも初日の舞台までに間に合わないんじゃないかっていう、焦りがある日々でした。2番手時代も、目の前にあることを本気で頑張り続けないと目標以上にはたどり着けないと思っていました。だから、ずっと先を見るよりも、こうなりたいという目の前の目標に向けて頑張っていたら、どんどんそれが良い方向へつながっていった。先のことを描いた方がいいという本なんかもありますが、描かないことも良いのかもしれませんね」

自身の実力以上の役との出合いで頑張り方が分かるように

人生の転機から、柚希さんが学んだことを聞いてみた。

「人生の転機となった瞬間は、いくつもあります。まず宝塚に入団したとき、そしてトップになったとき。あとは星組の『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』という作品で2番手に選ばれ、“あなたが失敗したら、この作品がコケてしまう”と言われるくらい、自分の実力に対して大きな役をやらせていただいたときです。
毎日、毎日、稽古のたびに、お芝居ができなくて落ち込んでいたのですが、この役との出合いで、舞台への取り組み方も変わったと思います。それまでも全力で向かっていたのですが、やっと頑張り方が分かってきたように感じました」

舞台のことを学んだ宝塚を退団後は、いろいろと戸惑いもあったという。

「歌の先生も毎日稽古をしてくださり、本番では舞台で一人ですけど、周りにはそうやって支えてくれる方がいた。宝塚では常に周りにみんながいてくれたので、すごく安心感があった。それに比べると、退団してからは一緒に公演をつくる人たちが毎公演ごとに違うことを不安に思うこともありました。
でもいまは、その時々でもっとたくさんの人に出会えるのだと思うと、宝塚じゃない世界もいいなと思えるようになりました。いまでも、舞台に向かうときには初日に間に合わなかったらどうしようって気持ちがあります。でもいろいろな人が手を差し伸べてくださるので、舞台に立っているときは一人ではないと思えるのです」

「表面的なものだけでは判断されない」ファンの存在がいまも大きな支えに

柚希さんにとって、舞台に立つうえでコンディションが大切という。

「これまでずっと辞めたいって思ったことはなかった。でも声が上手く出せなかったときは、自分には舞台は向いていないのかも……と弱気になっていました。でも、“練習をすればできるようになる”という希望を追い求めていたら、いつもそこに光が差すのです。その希望を頼りに、毎公演を行っています」

ファンミーティングを行うなど、ファンとの交流を大事にしてきた柚希さん。そこには役作りに対してもこだわりがあった。

「宝塚を退団してしばらくは、作品選びも慎重になっていました。役選びもカッコ良い役でないととか、ファンの方が見たい役でないと良くないと考えていました。でもファンの方って、本当にちゃんと見てくださっているんですよね。
ファンの方は、露出がある役とかイヤだろうなって勝手に思っていたのですが、そんなことも全然なかった。いまも応援してくださっている方は、そういう表面的なものだけでは判断されないですよね。もっと深い部分を感じ取って、応援してくださっているんだなと思います」

ファンの応援から元気をもらっているという柚希さん。そこには、舞台に対してストイックでありながらも、宝塚時代からファンを大事にする優しさが垣間見れた。

「私の方も、ファンの方の顔を見たり、お手紙をいただいたりして、逆にファンのみなさまからパワーをもらっています。お手紙の内容からも、“こういうふうに思ってくれているんだ”とか、“こういうふうにした方が良いのか”ってすごく背中を押していただいています。
なかには、入院中に私のDVDを見て困難を乗り越えることができた、っていう手紙もありました。私の舞台で、病気の方や元気を出したいと思っている方たちを救うことができているって分かると、本当に頑張ろうって思います」

順調にキャリアを重ねてきたように見える柚希さんだが、転機となった瞬間はいくつもあった。すべてに対して、真摯に頑張ってきたからこそ「つらいことはない」と言い切れるのではないだろうか。かっこよく生きてきたからこそ、舞台での輝きが増しているのだと感じられた。

柚希礼音(ゆずき・れおん)
大阪府出身。俳優。1999年85期生として宝塚に入団。初舞台後、星組に配属。新人公演や主演を重ね、‘09年に星組トップスターに就任。6年に渡りトップスターを務めた。’15年5月に退団後も、ミュージカルやコンサートなど精力的に活動。第30回松尾芸能新人賞、第65回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第37回菊田一夫演劇賞を受賞。退団後の主な出演舞台に『COME FROM AWAY』、『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』『マタ・ハリ』など。‘24年8月には、今年で開催5回目を迎える『REON JACK5』の公演を控えている。

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