驚異の射撃精度で弾穴を撃ち抜いて弾痕見つからず 1912年ストックホルム大会【オリンピック珍事件】

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近代五種競技で思わぬハプニング

1912年、スウェーデンの首都ストックホルムで開催された第5回オリンピック夏季大会。この大会で初めて正式種目となった近代五種競技において、一つの興味深い出来事が起こった。スウェーデンの選手、ヨースタ・リリーホークの逆転劇である。

近代五種は、射撃、フェンシング、水泳、馬術、クロスカントリー走の5種目で構成される競技。リリーホークは、地元スウェーデンの期待を一身に背負い、金メダルを狙っていた。

競技初日、射撃種目が行われた。リリーホークは自信を持って射撃に臨んだ。彼の射撃の精度は非常に高く、一つの的に対して複数の弾を命中させた。しかし、ここで思わぬ事態が起こる。彼の最後の射撃で、審判が弾痕を確認できなかったのだ。

実際には、リリーホークの弾は的を外れてはいなかった。彼の射撃の精度があまりに高く、最後の弾が既存の弾穴を再び撃ち抜くという、非常にまれな現象が起きていたのである。しかし、当時の技術では即座にこれを確認することができず、審判は彼の得点を低く採点してしまった。

「弾穴貫通」認められ逆転金メダル

この判定により、リリーホークは一時的に順位を落とすことになった。しかし、ここから物語は思わぬ展開を見せる。他の競技者や観客の中に、リリーホークの射撃を目撃していた人々がいたのだ。彼らの証言により、リリーホークの射撃の精度の高さが明らかになった。

大会組織委員会は直ちに調査を開始した。的を詳細に調べた結果、リリーホークの主張が正しいことが判明。彼の最後の射撃は、既存の弾穴を再び貫通していたのである。

この発見を受けて、リリーホークの得点は修正された。当初は不利な採点により金メダルの可能性が危ぶまれていたが、この修正により、彼は見事に金メダルを獲得することができたのだ。

公平な判定と技術の進歩を促進

リリーホークの逆転劇は、オリンピック史に残る興味深いエピソードとして語り継がれている。彼の驚異的な射撃精度は、一時的には不運をもたらしたものの、最終的には彼の真の実力を証明することとなった。

この事件は、スポーツにおける公平な判定の重要性と、技術の進歩の必要性を浮き彫りにした。現代では、電子的な判定システムが導入され、このような誤審は起こりにくくなっている。しかし、当時はそのような技術がなく、人間の目に頼らざるを得なかったのだ。

リリーホークの物語は、オリンピックが単なる勝敗を超えた人間ドラマの舞台であることを示している。彼の経験は、スポーツの公平性や正確な判定の重要性について、私たちに考えさせるきっかけとなった。



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