【漫画】地球の終わりが近づいても、変わらない「友情」のあたたかさ……SNS漫画『ミウと方舟』に涙

人類に残された選択肢が「居住可能な別の惑星」だけになったとしても、変わらないものがあるのかもしれない。3月下旬にXに投稿されたオリジナル漫画『ミウと方舟』は壮大な舞台設定でありながらも、友人の存在がいかに人生を豊かにしてくれるのかを教えてくれるSF漫画だ。

異常気象によって動植物の大半が死滅した地球が舞台。人類が新たに住める星を探すパイロットを養成する航空宇宙局に入学したミウとサリー。常に冷めた態度を見せるミウとは対照的にサリーは明るく活発な女性。正反対の性格の2人ではあるが、次第に仲を深めていく――。

本作を手掛けたのは、『月刊COMICリュウ』(徳間書店)のウェブ版『COMICリュウWEB』で『独身サラリーマン鈴木の生態』を連載後、現在は『ビッグコミック』(小学館)の編集者と一緒に読み切り漫画を手がけているという鈴木マ球さん(@dengekibrief)。『別冊ビッグコミックゴルゴ13シリーズ 223』に掲載された読み切り漫画である本作ができあがった経緯を聞いた。(望月悠木)

■コロナ禍が生んだラスト?

――『ミウと方舟』を制作しようと思ったキッカケは?

鈴木:「最新のテクノロジーを題材にしたSF漫画を描きたい」と考えていたタイミングで、たまたま3Dプリンターに関する記事を読んだことがキッカケです。“3Dプリンターを使って何もないところから食べ物が出てくる”というイメージがあり、情報を伝達する技術であることに改めて気付き、そこからストーリーを膨らませていきました。

――なぜ舞台を地球ではなく宇宙にしたのですか?

鈴木:“地球が環境破壊によって住めなくなってしまう”という設定は、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』から影響を受けています。加えて、少し舞台設定は異なりますが、少女たちがロボットのパイロットを目指す『トップをねらえ!』というアニメからの影響も受けました。

――ストーリー自体はどのように決めていきましたか?

鈴木:「親の教育のせいで自我を持たなかった少女が、どのような経験をすれば笑顔になるのか」ということを考えながら膨らませています。ちなみに、友達にネイルをしてもらうシーンは、小学生の時に同級生の女の子たちがホウセンカの花弁を絞って爪に色をつけて遊んでいた記憶から来ています。

――ミウとサリーというメインの2人はどのようにして誕生させましたか?

鈴木:ミウはアメリカに住んでいた時に友達になった日系の女の子をモデルにしています。彼女は「親の宗教の影響で結婚相手を選択する自由がない」という話をしていて、当時何も知らなかった私は衝撃を受けました。一方、サリーのモデルなどは特にいないのですが、名前はアメリカの宇宙飛行士サリー・ライドからもらっています。

――ネイルを初めて見た時、合成チキンを初めて食べた時など、ミウのキラキラした表情が印象的でした。

鈴木:それらのカットは目で感情を表現するよう意識して描いています。また、「初めて美しいものや楽しいことに触れる時、どのような目の輝き方をするだろうか」と考えました。

――合成チキンを1万回以上も送っている、という感動的なラストは最初から決めていたのですか?

鈴木:3Dプリンターが暴走して食べ切れないほどの食べ物が印刷される、というラストは最初から決めていました。ネームを考えていた時期がコロナ渦だったこともあり、会えない相手とコミュニケーションを取ることについてじっくり考える時間がありました。会えない相手に対する思いが爆発した結果、このラストが生まれたのではないかと思っています。

――ラストで言えば、「カリカリの衣で口の中が傷付くって知らなかった」というセリフは、“初めてフライドチキンを食べた人の感想”を見事に表現したセリフでしたね。

鈴木:揚げたてのチキンを食べると口の中を火傷することは小さい子どもでも知っています。しかし、ラストでミウはそれに初めて気がつきました。彼女の人生に親や周囲の期待がのしかかり、自由な暮らしがなかった境遇。さらには、私達のように自分らしい選択ができるまでに20数年もの長い時間を要してしまったことを象徴する、重みのあるセリフであると思います。

――今後はどのように漫画を描いていきたいですか?

鈴木:しばらくはSF漫画を描きたいと考えています。「人間はこれからも地球の支配者でいられるのか」「他の動物はそれをどう思っているのか」など、テクノロジーの進歩と環境破壊について興味があります。他にも、温暖化や体内に蓄積されるマイクロプラスチックなど、テクノロジーの進歩によって様々な問題が生じており、「今後人間はそれらに適応してどのような生き方をするのか」など興味は尽きません。興味があることはたくさんあるのですが、とにかく遅筆なのでその辺りも鍛えていきたいです。

(望月悠木)

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