POTCOOK(ポットクック)~ 冷たい焼き芋、開業相談。焼き芋ブームを仕掛けた専門店の戦略

福山市加茂町にあるPOTCOOK(ポットクック)は、ねっとりと甘い焼き芋やお芋スイーツで人気の焼き芋専門店ですが、実はもうひとつの顔があります。
それは、全国の焼き芋屋さんが焼き芋の焼き方からスイーツ開発、経営方法までを学んでいる、焼き芋業界の総本山のような存在という一面です。

ポットクック代表の釜崎栄治(かまさき えいじ)さんに、焼き芋と歩んできた軌跡を聞きました。

焼き芋専門店ポットクック

蜜がたっぷりの焼き芋や、焼き芋を使ったやさしいスイーツで人気のお店が、ポットクック加茂店です。
ポットクックの焼き芋を一度食べると、また食べたくなってしまいます。皮にまで染み出すほど蜜がたっぷりで、甘くねっとりとしているのです。

蜜がたっぷりの焼き芋

焼き芋は、遠赤外線で90分間じっくりと焼き、デンプンを糖に変えています。また、サツマイモは収穫後に60日以上熟成させて、糖度を高めています。
ポットクックの焼き芋は、離乳食にもぴったりです。

寒い冬に熱々ホクホクの焼き芋は大人気ですが、夏場、焼き芋はあまり売れません。
そこで、ポットクック代表の釜崎さんは夏向けの新しい食べ方を提案しました。冷たい焼き芋、「冷やし焼き芋」です。
焼き芋には糖分が多く含まれているため、冷凍してもカチカチに凍ることがなく、やわらかさを保っています。冷やし焼き芋はアイスクリーム代わりとしてもオススメの、ヘルシーな夏のおやつです。

「『冷やしたての焼き芋ですよ~!冷やし焼き芋はいかがですか~!』とお客さんに声をかけたんですよ。焼きたては聞いたことがあっても、冷やしたてってなんだ?と、お客さんが足を止めるんです。暑い日には冷たい焼き芋が、うまいんですよ」

イベントで冷やし焼き芋を売る釜崎さん
冷たくても甘い、冷やし焼き芋

焼き芋だけではなく、添加物を使わずに作ったお芋スイーツも充実しています。子どもたちにも安心して食べさせられる自然のスイーツが、ポットクックの特徴です。

開店当時からの定番商品であるスイートポテトは、小麦や卵アレルギーの人にも食べてもらえるよう、グルテンフリー、卵不使用です。

お芋のチーズケーキや干し芋、お芋のプリンなど、お芋を使ったスイーツは毎月新商品が登場します。

お芋のレアチーズケーキ
お芋のプリン
干し芋

夏には、かき氷も提供しています。一番人気の「お芋のかき氷」には、お芋のシロップやお芋クリームを使っています。ふわふわの生クリームやあんこも加わって、1杯でお腹も心も大満足でした。

ボリュームたっぷりの「お芋のかき氷」

ポットクックのキャラクターは、よだれかけをして手には離乳食用のスプーンを持っている、赤ちゃんのクマです。子どもたちにも安心して食べさせられる品質を表現しています。
このキャラクターをはじめ、包装紙や店内のポスターなども、釜崎さん自身がデザインしています。

ポットクックのビジネス展開

焼き芋用のつぼ(左)とかまど(右) 2023年12月撮影

ポットクックでは、焼き芋を焼くための鉄製のかまども製作、販売しています。

このかまどは上下に分かれるようになっていて、誰にでも運びやすい構造です。お芋の焼けるようすが観察できる小窓や、温かみのある黄色いボディのかわいらしさから、イベント会場でも注目を集めます。

かまどを販売するだけではありません。
焼き芋屋を始めようとする人向けに、オンラインで焼き芋の焼き方やスイーツ作りなどの講座を開き、開業相談もおこなっています。ポットクックの店舗で、研修することもあります。

それまでリヤカーで移動販売するのが当たり前だった焼き芋を、オシャレな店舗で売れるものに変え、全国に焼き芋ブームを仕掛けた人が、釜崎栄治さんです。

ポットクックには全国の焼き芋屋さんが、研究のために焼き芋やスイーツを買いに訪れます。
一体なぜポットクックは、全国の焼き芋屋さんが注目する存在となったのでしょうか。

きっかけは1本のつぼ焼き芋

大阪で生まれ育ち、食品メーカーに勤めていた釜崎さんと焼き芋の出会いは、お客さんのところで食べた1本のつぼ焼き芋でした。

昭和のはじめ頃までは、全国の駄菓子屋の店先で、つぼで焼いた芋を売る光景が見られたそうです。
専用のつぼの中に入れたワイヤーに芋を置き、炭火とつぼからの遠赤外線でじっくりと蒸し焼きにする「つぼ焼き」は、芋の水分を保ったまま甘みを存分に引き出す焼き方でした。

焼き芋が特別好き、というわけではなかったんだけどね。お客さんにもらったつぼ焼き芋を食べたときに、これは売れると感じたんです。試しに周りの人たちに聞いてみたら、みんなが焼き芋なんか売れないからやめろっていう。それは逆にいうと、誰も目をつけていないビジネスチャンスだということです。だから、定年後に焼き芋をやろうと決めました」

しかし、当時つぼ焼き芋を扱っていたのは全国でもわずか5軒ほど。釜崎さんがどれほどたずね歩いても、つぼも、つぼを作っている窯元も、ありませんでした。

「つぼがないのなら作ってもらうしかないと、焼き芋用のつぼを作れる職人を探しました。1年くらいかかってようやく見つけたのが、愛知県常滑市の職人さんです。ひも状にした粘土を積み上げては密着させることを繰り返してつぼの形を作り、1,200度で1週間焼き上げます。そして、また1週間かけてゆっくり温度を下げてから取り出します。こうして出来上がったつぼで、焼き芋を作れるようになりました」

つぼ焼き芋の魅力を伝えるため、またお客さんの反応を確かめるために、釜崎さんは大阪府吹田市につぼ焼き芋専門店「POTCOOK」を開きます。2015年のことでした。

2015年、吹田市につぼ焼き芋専門店ポットクックをオープン(画像提供:ポットクック)

「それまでの焼き芋のイメージを変えるために、カフェのような、真っ白な壁のオシャレな店にしたんですよ。焼き芋だけでなく、スイートポテトも出しました。ずっと食品メーカーに勤めていたから、砂糖の知識があったし、マーケティングの方法もわかっていたんです。
なんだか変わった焼き芋屋があるぞと大阪のテレビや雑誌にも取り上げられて、お客さんが行列を作るようになりました。

つぼ焼き芋に注目が集まるようになると、つぼに注目する人も増えてきます。僕が1人で焼き芋を売ってもブームは作れませんが、あちこちで売ればブームができて、さらに焼き芋が売れるようになる。
だからつぼを作って売って、つぼ焼き芋の焼き方も教えたんです」

画像提供:ポットクック

つぼは400個ほど売れました。釜崎さんの下で研修を受けた人たちの店が銀座や名古屋などの都市圏で人気となり、全国でつぼ焼き芋のブームが起きたのです。

もうひとつ、焼き芋ブームの要因となったのは、新しいサツマイモ品種の誕生です。
2010年に品種登録された「べにはるか」は、甘みが強く、焼き芋にすると非常においしい品種でした。

「僕がつぼ焼き芋を始める少し前に、べにはるかが生まれたんですね。べにはるかを使うと、従来の品種よりもねっとりとして糖度の高い、おいしい焼き芋ができました」

べにはるかは登録以来、作付面積のシェアを毎年拡大しています。
その他、2012年に誕生した「シルクスイート」や、2013年から種子島以外でも作れるようになった「安納芋」など、焼き芋向けの品種の生産量が増えていきました。つぼとサツマイモの新品種誕生のタイミングが、ぴったりと合っていたのです。

厳選したお芋だけを仕入れている(画像提供:ポットクック)

釜崎さんのこだわりは、品種だけではありません。釜崎さんが仕入れるサツマイモは、熊本県西原村や鹿児島県種子島の特定の農家が作ったものだけです。

畑が違うと、味がまったく違うんです。実際に畑を訪れて、この人がこの土で作るこの芋だ、と惚れ込んだものだけを直接仕入れています」

こうして吹田市を拠点に全国につぼ焼き芋を広めていった釜崎さん。
しかし、順風満帆に見えた2018年4月、吹田の店を閉めて福山へと移ります。

福山への移住とかまどの開発

「大阪生まれ大阪育ちだから、福山って何県?って感じでしたし、新幹線が停まることも知りませんでした」

福山に移住を決めたのは、娘さんの嫁ぎ先が福山だったからでした。

「2018年に孫が生まれたんです。かわいくてね。娘の手助けをするために、夫婦で福山に移住することにしました。大阪のように刺激が多いわけではないけれど、駅の側にお城があるし、海も山もあるし、いいところですね」

2018年10月、福山市駅家町につぼ焼き芋専門店ポットクックがオープンしました。

2018年オープンのポットクック駅家店(画像提供:ポットクック)

「駅家の店も外観にこだわったので、最初は美容院かなにかだと思われたみたいです。全国の焼き芋ブームは、まだ福山には届いていませんでしたが、しだいに皆さんに知ってもらえるようになりました」
大阪のお店と同じように、焼き芋やお芋スイーツを求めて、お客が列を作るようになったのです。

移住して3年目の2021年、新たに開発したのが鉄製の「かまど」でした。

「つぼの移動が大変だったんですよね。誰でも簡単に持ち運べて、キッチンカーなんかでイベントにも気軽に持っていけるようなものができないだろうか、と考えていたんです。
福山は鉄のまちで、いい鉄工所があります。鉄工所に相談しながら作ったのが、このかまどです。持ちやすいように持ち手を太くしたり、上下に分かれるようにしたり、中が見えるようにしたりと、つぼの欠点を克服しました」

かまどは上下セパレートタイプ(画像提供:ポットクック)
かまどの中のようす(画像提供:ポットクック)

このかまどでも、つぼと同じように遠赤外線で90分かけてじっくりお芋を焼きます。味を変えずに、より使いやすい焼き芋専用のかまどができたのです。
現在、ポットクックの焼き芋はかまどで焼いています。一度に焼けるのは17本。1日におよそ70本焼きます。

「かまどは、今までに200台くらい売れました。けれども最近は焼き芋だけでは売れなくなってきているので、スイーツ開発が必要なんですね。自然なお芋の味を壊したくないので、プリンやチーズケーキの生地などにもしっかりとお芋を使って、砂糖を控えめにしたシンプルな味になるよう工夫しています。
お芋が売れない夏場のために、かき氷の作り方の研修もしています。こういうのをすべて、かまどを買った人に教えるんです」

知名度の上昇とともに、イベント出店に声がかかることも増えました。福山ばら祭りや福山駅前マルシェなどのイベントに出向いて、焼き芋と焼き芋スイーツのおいしさを伝えています。

駅家店が手狭になってきたことなどから、2022年11月、ポットクックは加茂店に移転しました。

ポットクック加茂店 2023年12月撮影

2024年現在、駅家店では焼き芋やスイーツの製造をおこない、加茂店では販売のみをおこなっています。
添加物を使っていないポットクックのスイーツは、あまり日持ちがしません。それでも、やさしい味のお芋を味わえることがポットクックの魅力です。

テイクアウトがメインのため、店内は7席のみ

自宅用や手土産用にと買い求める人が次々と訪れるため、週末には閉店時間を待たずに売り切れてしまうこともあります。
お店を訪れるなら、午前中がオススメです。

アウトドア好きの釜崎さん。ポットクック加茂店内の黒板にはキャンプ場の情報がある

全国の焼き芋屋さんに伝えるため、新商品開発にも余念がありません。安心安全でよりおいしいお芋スイーツになるように、試行錯誤をし、新しい味を追求しています。

2024年夏の新商品「おいもドキ!」 子どもや高齢者にも食べやすいよう、ふんわりとやわらかな生地で焼き芋を包んでいる

次のステージを目指して

カフェのような焼き芋屋や、今まで誰も考えなかった冷やし焼き芋など、焼き芋の概念を崩し続けてブームを作ってきた釜崎さんに、次の展開を聞きました。

「10年ほど焼き芋屋をやってきたので、そろそろ次のクリエイティブなことをしたいと思っているんです。写真も好きだし、デザインもおもしろいし。いろいろ作るのが好きなので、新しい展開を考えているところです」

いたずらっ子のように目を輝かせながら次のステージを語る釜崎さん。
ポットクックがこれからどのように変化していくのかが、楽しみです。

取材協力

  • 写真・取材一部提供:森まゆみ

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