『義母と娘のブルース』は永遠に生き続ける 5年半を経て迎えた「FINAL」の感動を再び

『義母と娘のブルースFINAL 2024年謹賀新年スペシャル』のBlu-rayとDVDが7月10日に発売される。桜沢鈴による同名コミック(ぶんか社刊)を原作に、『大奥』(NHK総合)の森下佳子が脚本を手掛けた本作は、2018年7月期にTBS系で連続ドラマとして始まり、「謹賀新年スペシャル」として2020年、2022年と回を重ね、そして2024年、5年半の歳月を経て惜しまれつつ「FINAL」を迎えた。

『義母と娘のブルース FINAL2024年謹賀新年スペシャル』のBlu-rayとDVDには、特典映像として「愛と奇跡のメイキング集 義母と娘のメモリアル」のほか、制作発表会見の様子や、綾瀬はるか、佐藤健、上白石萌歌、井之脇海のスペシャルインタビュー、PR集と、充実のラインナップが収録されている。さらに初回生産限定特典として、これまで放送された4作品分のBlu-rayもしくはDVDをまとめて収録できるスペシャルBOXが封入されているため、既にこれまでの3作品を購入済みの方はぜひコンプリートしていただきたい。

特典映像として収録されたメイキング映像集「義母と娘のメモリアル」では、ドラマシリーズと3本のスペシャルドラマのメイキング映像が収録されているのだが、当時18歳だった娘・みゆき役の上白石萌歌が役柄同様に成長していく姿や、俳優それぞれの役柄に対する愛着が深まっていく様子が感じとれて、実に感慨深い。「(『義母と娘のブルース』の現場は、)現在地を確認するような場所であり、家族のような存在だった」と涙ながらに語る大樹役の井之脇や、「2050年にまた集まりましょう。長生きしてください」と呼びかける麦田役の佐藤の姿など、誰もがスタッフと共演者、並びに作品への愛と尊敬を語り、時に涙ぐむ、優しさに溢れたクランクアップの光景を垣間見るにつけ、本シリーズの素晴らしさをより一層感じたのだった。

『義母と娘のブルース』は、義母・亜希子(綾瀬はるか)が娘・みゆき(上白石萌歌)と過ごした13年間を描いた。つまり視聴者は、8歳のみゆき(横溝菜帆)が21歳になるまでを見守り続けた。そして、彼女は多くの人々の愛を受け、朗らかに成長し、亜希子とそっくりのスーツを着て就職活動をし、瞬く間に幼なじみの大樹(井之脇海)と結婚して、パリに旅立っていった。

それは少しばかり駆け足過ぎるところはあるけれど、本作の登場人物並びに多くの視聴者に見守られてきた彼女の人生としてこの上なく幸せな描き方だったと言えるだろう。視聴者は彼女の成長を目の当たりにすることで、自分の娘や息子のことを思ったり、あるいは娘・息子が親のことを思ったりと、自分の人生と重ね合わせて観ることができたのではないだろうか。何より本作のクライマックスが、これまでの登場人物が一堂に会する、みゆきと大樹の結婚式だったこと。世の新郎新婦が「これまでの人生を振り返るスピーチ」をしてきたタイミングにおいて、彼女もまた、彼女が義母と過ごした日々の記憶、つまりはこのドラマシリーズ全体を振り返る。宮本みゆきの人生とドラマの歴史が、ピタリと一致した瞬間だった。また、前述した場面において、亜希子とみゆきという役柄を通して、俳優・綾瀬はるかと上白石萌歌が「言葉を交わす姿」を目の当たりにした共演者・スタッフたちが思わず見入ってしまう姿を、特典映像においても確認することができる。

しかし、『義母と娘のブルースFINAL』は、見返してみると奇妙な作品である。冒頭が三途の川から始まるのだから。2018年のドラマシリーズのオープニングは、太陽の眩しい陽射しのショットと、そこから誰かが町を見下ろしているかのような俯瞰ショットに続き、8歳のみゆきが自転車を懸命に漕いでいる姿から始まった。一方、『FINAL』は、カメラが町を勢いよく俯瞰した後、一気に雲の上へと駆け上がる。その先には「俳優の田串浩正(田口浩正)」に話しかけられる船頭の良一(竹野内豊)がいて、次の場面でみゆきが目を覚まし、その俳優の死を知らせるニュースを見ていた。さらには亜希子の前に度々現れるシゲ(木野花)も、終盤本当に霊となるのだが、彼女に出会う場面のたび亜希子が倒れるなど、不穏なことがおこる予兆のようなものを感じさせる存在である。さらにはみゆきが亜希子を末期がんで余命幾ばくもないと信じ込むこともあり、亜希子が結婚式の最中にうたた寝する場面が、ドラマシリーズの良一の最期の光景にどことなく重なること。亜希子自身が三途の川で良一と再会することなどを通して、本作には、随所に「死」を思わせる箇所がある。

つまりこれは、「亜希子の死」を意味しているのではないか。亜希子の死とはすなわち、『義母と娘のブルース』の終わり、つまりは『義母と娘のブルース』シリーズの「死」を意味している。綾瀬はるかが撮影を終えて「明日から亜希子さんみたいな喋り方ができないのが寂しいです」と言っていたように(特典映像にて)、それは、テレビドラマの世界の中で生き続けていた「宮本亜希子」の終焉なのである。だからみゆきは何度も亜希子に言うのではないか。「死んでも長生きして」と。例えドラマが終わっても生き続けてと。ドラマシリーズ前半で死んだ良一が、時に瓜二つの人物・良治となり、時に成仏しきれない幽霊となり「船頭になって、死んでも働き続けている」ように。それはきっと、亜希子とみゆきの心の中に良一が存在し続けたからであり、亜希子が空を見上げては、良一に語りかけ続けたからだ。ドラマもまた、視聴者の心の中に存在し続けるたび、永遠に生き続ける。そしていつか、2050年以降の彼ら彼女たちに再会できる日を待とう。

(文=藤原奈緒)

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