『ガルクラ』『響け!ユーフォニアム』花田十輝が無双 2024年春アニメ総括&夏アニメ展望

7月2日深夜に『忘却バッテリー』が最終回を迎えた辺りで、春アニメが一段落しました。個人的には2016年秋に次ぐレベルで傑作揃いだったクールのように感じましたが、読者のみなさんはいかがだったでしょうか。

話数単位での面白かったエピソードは毎週更新の拙連載「神回・オブ・ザ・ウィーク」をご覧いただきたいですが、今回は春アニメ全体を通して感じたふたつの傾向について振り返ります。

●“女性同士のギスギス”がトレンド?

男女で分けてどうこう語るのも憚られるご時世ですが、それにしてもこの春は「女性同士のギスギス」話が多かった! パッと思いつくだけでも『ガールズバンドクライ』『ささやくように恋を唄う』『声優ラジオのウラオモテ』『響け!ユーフォニアム3』『夜のクラゲは泳げない』、捉え方によっては『終末トレインどこへいく?』や『まぁるい彼女と残念な彼氏』も射程に入るかもしれないし、映画では『トラペジウム』も話題になりました。

もちろん内容はそれぞれで『ガールズバンドクライ』や『トラペジウム』なんかは「女性同士というより主人公が一方的にギスってるだけじゃない?」と感じたりもするのですが、それにしても湿度が高かった。しかも、そんなクールにカードゲーム『WIXOSS-ウィクロス-』の10周年プロジェクトのアニメPVが公開されるとは……。

そのおかげで、女の子がたくさん出てくるのにまったくギスギスしない『ゆるキャン△』や『ワンルーム、日当たり普通、天使つき。』、そして『アイドルマスター シャイニーカラーズ』がとても価値のあるものに感じたほどです。

これが「少し前に多かった日常系へのカウンター」とか「過去に流行った◯◯のフォロワー」とか断言できればいいのですが決定的な理由は不明。ギスギスを経たほうが美味しくなるのかなあ……などと思ったりするのですが。とは言えこの1年を少し振り返るだけでも『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』や『星屑テレパス』などもあったように、春クールだけでなくしばらく続く流れなのでしょう。

ちなみにここまでに触れたうち、終始エモーショナルだったオリジナル作品『ガールズバンドクライ』や原作から見事な改変を行った『響け!ユーフォニアム3』のシリーズ構成&全話脚本を務めたのが花田十輝さん。映画『数分間のエールを』と合わせて、今クールの無双ぶりがとても印象的で……と思ったら、そもそも2024年がものすごい仕事量のようです。

●本編を面白くしてくれたX(旧Twitter)公式アカウント

春アニメでもうひとつ印象的だったのが、「SNSの使い方が上手いな~」と感じるアニメが多かったこと。まずは『夜のクラゲは泳げない』は第8話で主人公たちのユニット・JELEEのライブが行われるのに合わせてイラストを募集。そして第8話でJELEEがファンアートなどに囲まれたライブをすることで、視聴者がアニメ世界でのファンと同じように彼女たちを応援できたのです。また『ヨルクラ』に関してはスタッフによるスペースもものすごく充実していました。

『Unnamed Memory』に関しては「ある魔女の日記」(@Project_UM_log)というアカウントでヒロインのティナーシャの心情が徒然に書かれていましたが、物語最終盤の衝撃展開を経て「おやすみなさい。」というポストだけ残して消滅してしまいました(アカウント自体は残っているのですが)。思い切りがいい。

そういった仕掛けで一番よかったのが『リンカイ!』最終話に向けてのキャンペーン。主人公の泉ら若手が出場する「ルーキーファイナル」というレースの結果を3連単で予想するというものでX上では多くの人が参加していたのですが、このおかげでリアルタイム放送のレースシーンでは多くの人が自分が予想した選手を応援し白熱することに。つまり実際の競輪で車券を握りしめる観客を疑似体験できたのです。

もちろんこうしたユニークな試みは過去にもありましたが、ここまで1クール内にいろんな作品で見られたのは結構珍しいのでは。あくまで盤外戦ではありますが、単に注目を浴びる以上にアニメをより美味しくするためのトッピングとして機能するようなものを今後も期待したいところです。

●『【推しの子】』第2期の対抗馬は?

さて、すでに夏アニメも多数始まっていますが、そのなかで一番の話題作が『【推しの子】』第2期であることに疑いの余地はないでしょう。ここ数年でも、いわゆる“覇権”候補が事前に1作に絞られているクールは珍しいです。

ただ対抗馬としてはSNSの上手さで放送開始前後から話題を集める『しかのこのこのここしたんたん』や、映像美で魅せる『小市民シリーズ』などが浮かびますし、あとは今期やたらと多いラブコメからも何か傑作が生まれるかもしれません(個人的には異彩を放ち過ぎている『義妹生活』の今後が気になって仕方ない)。夏クールも、どんな面白いエピソードと出会えるか楽しみにしながら見続けましょう。春クールより本数が全然少なくてラクだし!

(文=はるのおと)

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