キューウェル監督は横浜FMで降格のプレッシャーに耐えられるのか?

ハリー・キューウェル監督 写真:Getty Images

J1リーグ第22節終了時点で13位につける横浜F・マリノス。同クラブを率いるハリー・キューウェル監督の手腕について、様々なメディアでも辛口の意見が伝えられている。

横浜FMは、5月26日AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦でアル・アイン(UAE)に1-5で大敗した時から、何か雲行きが怪しくなってきた。その大敗から1ヶ月以上が過ぎたが、現在はJ1リーグで首位やACLの出場権争いをしているわけではなく、降格圏から5ポイント差の13位というプレッシャーにさらされている。第22節では好調のガンバ大阪に0-4という完敗を喫し4連敗。2008年に6連敗をして以来16年ぶりの連敗で、その記録に並ぶかもしれない。

キューウェル監督は選手としてはそれなりの実力者ではあった。ユース時代(1995-1997)とプレミアリーグでの初期活動をイングランドのリーズ・ユナイテッド(1996-2003/現EFLチャンピオンシップ)で過ごした後、同じくプレミアリーグのリバプール(2003-2008)に移籍し、2005年にはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のタイトルを獲得。さらにはトルコの名門ガラタサライ(2008-2011)で活躍し、2011年から14年までは母国のオーストラリアでキャリアの終焉を迎えている。

引退後はイングランドのワトフォード(EFLチャンピオンシップ)やスコティッシュ・プレミアリーグの名門セルティックのトップチームのコーチを歴任し、2023年の大晦日に横浜FMの監督に就任した。

キューウェル監督の同胞であるアンジェ・ポステコグルー監督(トッテナム・ホットスパー)とケヴィン・マスカット監督(上海海港足球倶楽部)は、それぞれ2019年と2022年に横浜FMをリーグ優勝に導いた。その先人達の成功を模倣するコースをとるかに思えたが、キューウェル監督は独自の路線を導き出そうとしているように映る。もちろん選手の移籍や怪我での離脱等の問題も関係するが、大幅に戦術を変更してきたのだ。

前任の監督2人が攻撃力の高い3トップにボールを預け、あとは任せたぞといわんばかりのある意味分かりやすいサッカーを展開していたのに比べ、キューウェル監督はコンパクトな陣形で半ば全員で攻撃するような形式を取りたがっているのだと思う。しかし、そう簡単に思うようにはいかず、前線からDFラインは敗戦時は間延びが酷く、とてもコンパクトな陣形を構築しているとは思えない。

しかし、決めるべきところでゴールを決められない印象が残る試合も多い中、第22節時点で31ゴールと健闘しており、中でもエースのブラジル人ストライカー、FWアンデルソン・ロペスはここまで12ゴールで攻撃陣を牽引し続けている。ただ、その他のFW陣の不甲斐なさは目に余るものがあり、FWヤン・マテウス、FW宮市亮、FW植中朝日、FWエウベル4人の総得点を足しても7ゴールと、ロペスのゴール数にも及ばない記録だ。

それ以上に問題なのは、35失点という守備の脆さである。DF畠中慎之介の怪我での離脱の影響もあるが、中盤でのプレスの強度は低い。前線と最終ラインのコンパクトさは皆無で、左右にパスで揺さぶられると真ん中にぽっかりとスペースが空き、そこに走りこまれる典型的な失点パターンが多い。サイドからのセンタリングへの対応も弱く、そこにGK陣の不安定さも加わり、完全に自信を失っているかのようにみえる。

また、オリンピック世代のホープ、MF藤田譲瑠チマがベルギー・プロリーグのシント=トロイデンへ移籍したことで、中盤のローテンションやオプションの質が下がったことは否めない。藤田は相手の攻撃の芽を素早く摘み取り、中盤でのボール奪取から素早く正確にパスを配給し、攻撃の起点となっていた。

藤田の不在はチームの戦術的柔軟性に影響を与えると同時に、若いながらもピッチ上でリーダーシップも発揮していたため、チームの士気や組織力にも影響を与えている可能性も考えられる。藤田移籍後の勝率を2023と2024シーズン共に22節までに限定してみると、2023シーズンは22試合中14試合に勝利して勝率63.64%、2024シーズンは22試合中7試合に勝利して勝率31.82%と極端に下がっている。他の要素も絡むので一概にはいえないが、かなりの確率で彼の存在は大きかったのではないだろうか。

とはいえ、いなくなった選手のことを嘆いていても仕方ない。現状での補強としては、20歳のトーゴ代表MFジャン・クルードをUAEのアル・ナスルから獲得した。しかし、前所属クラブと横浜FMでは『Opta』のグローバル・クラブ・ランキングで750位以上の圧倒的なレベル差があり、Jのレベルに対応できるのかは正直未知数だ。今シーズンは同様に川崎フロンターレも15位と下位に沈んでおり、J1での地位も簡単に維持できるほどJ1リーグのレベルは甘くなくなっているのが現実だ。

また、負けが続けばサポーターとの関係も難しくなるのは当然で、横浜FMは6月29日のJ1第21節でホームで東京ヴェルディに敗れると(1-2)、キューウェル監督と選手たちはサポーターから激しいブーイングを浴びた。不満を募らせているサポーターとの関係を修復するにも、特効薬は目の前の「勝利」だけといえよう。

クラブ史上初の降格という不名誉がちらついてきた現在、キューウェル監督は自分の理想であるスタイルや思考を捨てて、単純にMFとDFラインの強化に取り組むべきではないだろうか。

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