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THE ANSWER編集部・カメラマンフォトコラム
人が生きがいを感じる瞬間を収めた。ボクシングの日本ミニマム級1位・森且貴(大橋)が9日、東京・後楽園ホールでライトフライ級(48.9キロ以下)ノンタイトル8回戦に臨み、パリニャ・カイカンハ(タイ)に6回2分54秒TKO勝ちした。昨年11月以来、約8か月ぶりの再起戦。直近5戦3敗と苦労した末、戻ってきたリングで歓声を浴びる瞬間を切り取った。(写真・文=THE ANSWER編集部・中戸川 知世)
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右手を高く突き上げる様子は心地よさそうだった。
6回残り1分を切った時。右、左と森の拳が相手を襲った。「且貴ー! 行けー!」。コーナーに追い詰め、声援が飛ぶ。40秒ほど打ち続け、ラウンド終了まで残り6秒。レフェリーストップに客席がドッと沸いた。くるりと振り返った勝者。頬がわずかに緩んだその瞬間をリングサイドから切り取った。
手を叩いて喜ぶ観客と笑顔が私の印象に強く残った。森にとって1年ぶりの勝利。KO勝ちも3年ぶりだった。「KOはプロとして拘らないといけない。倒し切れたのはよかった」。控室前の通路で話をしてくれる表情には、充実感とこれまでの苦労が滲み出ていた。
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直近5試合で初黒星を含む3敗。「初めて負けた10戦目から歯車が狂っていた」。一発で倒そうとするあまり、ボクシングが崩れていた。昨年11月に日本ミニマム級王者・高田勇仁(ライオンズ)に判定負け。「できないことをやろうとして狂っていたのを、できることを伸ばそうと考え方を変えた」
離れていったファン、スポンサーもいた。「それが現実なのでプロとして仕方ない。それでも、自分を信じて応援してくれる人がいる」。自問自答を繰り返し、再起を決めた。
「立ち上がるのは凄く苦しくて。『もう俺、ダメなのかな』と何回も思って挫折した。でも、『やっぱ負けて終わっちゃダメでしょ!』って。いろんな方がサポートしてくれる中、ここでパッと辞めるのは人としてどうなのかなと。まだやりたいですし、『これできるな、あれできるな』と一生懸命、次を考えている自分がいた。それですね、またやろうって思えたのは」
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「強くなってた?」とおどける森、だからシャッターを切った
私自身、彼を撮影するのはプロ4戦目だった2019年9月の東日本ミニマム級新人王準決勝以来だった。同じ24歳。森は「強くなってた?」とおどけるが、そう思うから必死にシャッターを切った。
「負けを経験して這い上がって人として強くなれた。立ち上がってやってきたのは自信になる」
ボクシング人生を「9割嫌なこと、きついことかもしれない」と表現する。それでも、戦い続けるのはなぜか。
「やっぱ好きなんですよね。何百人も会場に来てくれるし、達成感も凄い。自分の生きがいというか、やっぱ好きなんですよ、シンプルに。
ボクシングって違うことをやって(技術を)足していけると思ったら、できたことができなくなることもある。そのままプラスになるわけじゃない。良くなったな、崩れたなの繰り返し。勝ったり負けたりするのも強くなるためのもの。『ポジティブに生きてこうぜ』って思っています」
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勝利を飾り、「赤コーナー、森且貴!」のコールを受けた。挫折を乗り越え、後楽園ホールの中心で生きがいを噛み締めたその瞬間が冒頭の1枚。「会場に来てくれた人に喜んでほしい。一緒に戦ってくれて本当に嬉しいです」。勝ち続けることだけが人生の価値ではないことを教えられた。
陣営の大橋秀行会長からは、結果を残せば同級王座挑戦者決定戦のチャンスを与えると言われている。
「まだまだこれから。まずは日本タイトル。そこですね」
戦い続ける姿に感服した。アスリートの人生を収め、届けることにこちらもやりがいを感じた夜だった。
THE ANSWER編集部・中戸川 知世 / Chise Nakatogawa