勝利のための敗北…バドミントンで無気力試合 2012年ロンドン大会【オリンピック珍事件】

Ⓒゲッティイメージズ

中国、韓国、インドネシアの選手たちが敗退行為

2012年7月末、イギリスの首都ロンドンで開催された第30回オリンピック夏季大会。この大会は多くの感動的な瞬間を生み出したが、同時にオリンピック精神を揺るがす前代未聞の事件の舞台ともなった。その舞台となったのはバドミントン競技だった。

事件が起きたのは、女子ダブルスの1次リーグ最終戦。中国、韓国、インドネシアの選手たちが、次の試合で有利な組み合わせを得るために、故意に負けようとする行為に及んだのだ。

中国のトップペアが韓国ペアに対して、明らかに手を抜いたプレーを展開した。サーブを故意にネットに引っかけたり、簡単なショットをわざとミスしたり、その行為は観客にも審判にも一目瞭然だった。

観客は怒りの声を上げ、審判は両チームに警告を与えた。しかし、選手たちは警告を無視し続けた。ブラックカード(ルール違反などによる失格の宣言)をちらつかせても、なお無気力試合は続き、結果、韓国ペアが勝利。この敗北により、中国ペアは決勝トーナメント1回戦で同じ中国の世界ランキング1位ペアとの対戦を避けられる組み合わせを獲得したのである。

しかし、事態はこれで収まらなかった。この試合に続く別の韓国ペアとインドネシアペアの試合でも、同様の行為が見られたのだ。両ペアとも、中国ペアとの対戦を避けるために負けようとしていた。

観客の怒りは頂点に達し、ブーイングが会場に鳴り響いた。審判は両チームに警告を与え、真剣にプレーするよう促したが、効果はなかった。結局、韓国ペアが「勝利」を収めた。

4ペア8選手が失格

この前代未聞の事態に、国際バドミントン連盟(BWF)は迅速な対応を迫られた。

緊急会議を開き、関係した4ペア8選手全員を大会から失格とする厳しい処分を決定。その理由は「故意に負けようとし、競技の品位を傷つけた」というものだった。

この決定により、準々決勝に進出するはずだった4組の8選手は大会を去ることとなった。代わりに、予選リーグで敗退していたペアが繰り上げで出場することになり、トーナメント表は大きく書き換えられた。

フェアプレーの精神を考える契機に

この事件は、オリンピックの根幹を揺るがす重大な問題として、世界中のメディアで大きく取り上げられた。多くの人々が、オリンピック精神やスポーツマンシップの在り方について議論を交わした。

批判の矛先は選手たちに向けられたが、同時にこのような事態を招いた大会方式にも疑問の声が上がった。予選リーグの結果次第で、決勝トーナメントの組み合わせが変わる現行方式に問題があるという指摘だ。

各国もこの事態を重く受け止め、中国は謝罪声明を発表し、関係した選手とコーチを厳しく処分すると発表したが、韓国は「相手が先に仕掛けたのが悪い」と不服を申し立て、インドネシアも裁定に抗議した。

選手たちを擁護する声もあった。メダル獲得のプレッシャーが強すぎるあまり、戦略的な判断をせざるを得なかったのではないかという見方だ。また、ルールの抜け穴を突いただけであり、選手たちを一方的に非難するのは適切ではないという意見も出た。

この事件を受け、BWFは大会方式の見直しに着手した。予選リーグの結果が決勝トーナメントの組み合わせに影響しないよう、システムの変更が検討された。また、選手の行動規範をより明確にし、このような事態の再発を防ぐための対策が講じられた。

2012年ロンドン五輪のバドミントン競技で起きたこの事件は、スポーツの本質とは何か、フェアプレーの精神とは何かを、私たちに深く考えさせるきっかけとなった。勝利至上主義がもたらす弊害、ルールの在り方、選手たちが置かれる状況など、様々な問題が浮き彫りになったのである。

この事件から得られた教訓は、その後のオリンピックや他の国際大会の運営に生かされている。スポーツの公平性と真の競争精神を守るため、私たちは常に警戒を怠らず、必要な改革を続けていく必要があるのだ。



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