『呪術廻戦』五条悟は乙骨憂太に救われたのかーー“現代最強の術師”が背負っていた苦しみ

※本稿は『呪術廻戦』最新話までの内容を含みます。ネタバレにご注意ください。

7月8日に発売された『週刊少年ジャンプ』32号(集英社)にて、『呪術廻戦』の最新話となる第262話-2「人外魔境新宿決戦(34)-2」が掲載された。これまでさまざまな角度から掘り下げが進んできた五条悟について、また新たな一面が明らかとなり、読者たちのあいだで大きな反響を呼んでいる。

現在、作中では両面宿儺と乙骨憂太がお互いに領域展開を行い、「小さい結界」のなかで1対1の戦いを繰り広げている最中。乙骨は羂索の“肉体を乗っ取る術式”をコピーし、一刀両断された五条の遺体に自身の脳を移すことで、無下限呪術を使って宿儺を追い詰めている。

宿儺は高専サイドの術師たちによる度重なる攻撃によって消耗しているため、千載一遇のチャンスのように見えるのだが、乙骨はまだ五条の肉体と術式を上手く使いこなせていない様子。最強の術式であるはずの無下限呪術についても、ポテンシャルを出しきれていない。

そもそも無下限呪術は扱いが難しい術式と明言されていた。たとえば単行本2巻の作者解説では、緻密な呪力操作が求められるため、“特別な目”を持つ五条にしか扱えないと説明されている。この特別な目とは、呪力を視認することができる「六眼」のことだ。

特級術師の1人である乙骨が六眼を受け継いでもなお、十分にコントロールすることができないという時点で、いかに無下限呪術が難しい術式なのか想像できるだろう。

五条自身も術式の完璧な習得にはかなり時間がかかったようで、呪術高専時代には術式反転「赫」の発動に失敗していた。しかし伏黒甚爾との死闘を経て呪力の核心を掴み、さらなる修練を経て「最強に成った」ことが明かされている。つまり五条は血筋によってたまたま“現代最強の呪術師”に生まれついたわけではないということだ。

「僕 最強だから」と不敵に言い放てるようになるまでのあいだに、はてしない努力の積み重ねがあったのではないだろうか。

最強ゆえに孤独になってしまった五条悟

とはいえ、努力のはてに怪物のような強さを手に入れた五条だが、それが本人にとっていいことだったのかどうかは分からない。皮肉なことに、他の誰にも理解できない絶対的な“孤独”に陥ることになったからだ。

過去編の「懐玉・玉折」では五条が夏油傑と共に最強の2人として活躍するところが描かれたが、途中で道を分かつことになり、最終的に夏油から“私は君になれない”といった態度で突き放されていた。最強の呪術師になったからこそ、共に歩める仲間を失ってしまうという悲哀がそこにはある。その後五条は「強く聡い仲間」を育てるために教育者になったものの、最後まで孤独が癒されることはなかった。

あえて対比的に考えるなら、そんな五条とは正反対の生き方を送っている術師が乙骨だ。仲間たちと修行を重ね、仲間たちを守るために戦ってきた術師であり、特級術師の1人になった今でも孤独とは無縁の境遇にある。そもそもその能力が“他人の術式をコピーする”というもので、自分ではない誰かの存在を前提としていることも、乙骨の性質をよく表しているように見える。

宿儺との戦い方を見ても、2人の違いはハッキリとしており、五条は最後まで1人で戦い続けたが、乙骨には共に戦う仲間がいた。

ただ、だからといって五条に救いがなかったとも言えないだろう。乙骨は五条を孤独に戦わせることを拒否し、その肉体に乗り移ることによって、共に戦うという態度を示してみせた。ある意味では乙骨は五条を孤独から解放することができたのではないだろうか。

現代最強の術師がよみがえり、仲間たちと力を合わせながら牙をむく……。そうした構図だからこそ、五条と乙骨のリベンジマッチは感動的に見える。最強の2人は今度こそ宿儺を討ち取ることができるのか、次回以降の展開に注目したいところだ。

(文=キットゥン希美)

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