法令整備や条例制定などカスハラを取り巻く状況~国、自治体、企業の動きを解説~

2024年5月に厚生労働省が公表した「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3 年間に勤務先で受けたハラスメントとしてはパワハラが最も高く(19.3%)、顧客からの著しい迷惑行為(10.8%)、セクハラ(6.3%)と続きました。
このうちセクハラは男女雇用機会均等法に、パワハラは労働施策総合推進法にて体制整備などが事業者に義務づけられています。
一方で顧客からの著しい迷惑行為、すなわちカスハラ(カスタマーハラスメント)は法律上の定義は置かれていないものの、従業員の保護を企業に義務づけるような法令化に向けた検討などが進んでいます。
そこで今回は、カスハラをめぐる国や自治体の動きなどをわかりやすく解説します。

カスハラの定義
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

カスハラ法令化に向けた動き~骨太の方針2024にも明記~

2024年5月に自民党内に置かれた雇用問題調査会カスタマーハラスメント対策PTでは、以下の内容を盛り込んだ提言を公表しました。

(1)カスタマーハラスメントに該当すると考えられる一定の範囲の明確化
(2)法整備などを念頭に置いた労働者保護対策の強化
(3)業界団体などを通じた取組みに対する政府の支援強化
(4)消費者の権利と責任の正しい理解を促進するための消費者教育の強化

さらに2024年6月に政府が取りまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針2024)では「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する」と明記されました。
こうした動きを踏まえて、厚生労働省において法令改正に向けた検討が見込まれています。

東京都では全国初の「カスハラ条例」策定へ

次に自治体の動きを見ていきます。
東京都では、カスハラ条例制定に向けて、2023年度に「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」を設置しました。
「カスタマーハラスメント」という言葉を広め、その防止の理念や責務を定める「理念型」の条例となる見込みで、都議会への条例案提出を目指しています。
制定されれば、全国で初めての「カスハラ防止条例」となります。
このほか三重県でも、2025年度の条例制定に向けて、また愛知県でも条例制定を視野に入れた協議会を設置するなどの動きが出ています。

JR東日本、JR西日本はカスハラ方針を示す

前記、厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、カスハラについて従業員から企業への相談件数の多かった業種は「医療、福祉」(53.9%)、「宿泊業、飲食サービス業」(46.4%)、「不動産業、物品賃貸業」(43.4%)でした。
また、カスハラを一度以上経験した割合については、割合の高い順に「生活関連サービス業、娯楽業」(16.6%)、「卸売業、小売業」(16.0%)、「宿泊業、飲食サービス業」(16.0%)でした。
接客頻度が高い業種ほど、相談件数や経験割合が高いことがわかります。
このうち宿泊業については2023年12月の改正旅館業法で「不当な割引、慰謝料の要求」「土下座など過度な謝罪の強要」「泥酔して長時間介抱させる」など、不当なカスハラを繰り返す客の宿泊を拒否することが可能になりました。

さらに昨今、問題となっているのが鉄道係員に対する暴力行為や、理不尽な言いがかりなどです。
国道交通省が2024年12月に発表した「鉄道係員に対するカスタマーハラスメントの発生状況(令和4年度)」などによると、2022年度の全国における鉄道係員に対する暴力行為は569件、カスタマーハラスメントは1,124件発生しています。
こうした状況を踏まえて、2024年4月にはJR東日本が「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針」を、また同年5月にはJR西日本が「JR西日本グループ カスタマーハラスメントに対する基本方針」を示し、カスハラの定義や該当行為とともに、カスハラが行われた場合の対応を明記しました。

これら国や自治体、企業の動きを踏まえると、カスハラへの対応はより厳格なものとなっていくことが考えられます。
私たち一人ひとりが生活において「顧客側」にもなり得ることから、個々の心がけや意識も重要といえるのではないでしょうか。

<参考>
・ 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」
・ 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
・ 自由民主党「カスタマーハラスメントの総合的な対策強化に向けた提言」
・ 内閣府「経済財政諮問会議令和6年第8回会議資料」
・ 東京都「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」
・ 国土交通省「はじめて鉄道係員へのカスタマーハラスメントの現状を把握しました!~第5回 迷惑行為に関する連絡会議を開催~」
・ 東日本旅客鉄道株式会社「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針(PDF)」
・ 西日本旅客鉄道株式会社「JR西日本グループ カスタマーハラスメントに対する基本方針」

© 株式会社ドクタートラスト