『虎に翼』寅子が家族に素直な心情を打ち明ける 男性陣の丁寧な心理描写も話題に

『虎に翼』(NHK総合)第74話で、帰宅した寅子(伊藤沙莉)は家族と向き合う。花江(森田望智)や優未(竹澤咲子)たちが「お帰りなさい」と明るく振る舞う中、道男(和田庵)ははっきりと今の寅子を非難した。寅子たちは家族会議を始める。

直人(琉人)が「スンってさせてるのはトラちゃんだろ」と指摘したことをはじめ、家族は寅子に正直な意見を述べる。直人、直治(楠楓馬)の言葉に耳を傾け、言葉を受け取っては謝罪する寅子だが、直明(三山凌輝)が打ち明けた思いが一番胸を突いたことだろう。

そんな第74話で心打たれるのは、寅子が正直な気持ちを優未に打ち明ける場面だ。道男や直人、直治は優未はここにいるべきだと考えていた。寅子自身も、「親と一緒にいるのが幸せなわけじゃない」ということは理解している。しかし彼女自身は、ここで別れてしまったら、自分と優未の間が取り返しのつかないことになることも分かっている。これまで優未に寂しい思いをさせていた寅子の振る舞いを見てきた視聴者にとって、優未に向かって発せられた寅子の台詞にはまだ危うさがあると感じられたかもしれない。だが、「お利口さんでいてって呪いをかけてしまって、ごめんね」という謝罪は、決してうわべだけのものではなかったし、優未を変に子供扱いせず、自分の率直な思いを伝える台詞はとても素直で心に響く。

「お母さんのワガママと勝手でしかないんだけどね……。お母さん頑張るから、生まれ変わるから……。だから一緒に新潟についてきてください」

ただ、できてしまった溝がすぐに埋まるわけではない。頭を下げる母に、優未は「はい」と返した。その「はい」は、“お利口さん”の「はい」のようにも思える。寅子の顔を見つめ返す優未は物悲しい顔をしているし、寅子の「ありがとう」という言葉に目を伏せたことも気になる。優未を演じている竹澤の演技には胸が締め付けられる。子供ながらに思うことは多々あるが、母に気を遣い、本音をさらけ出すことができないといったような複雑な胸の内が感じられるからだ。新潟へ行くことで、寅子と優未の間にできた溝が少しずつ埋まることを願ってやまない。

また、昨日の放送に引き続き、小橋(名村辰)の言動も話題に。物語終盤の桂場(松山ケンイチ)が寅子の将来を思って新潟異動を命じたことが分かる場面。汐見(平埜生成)が「愛されてるな、佐田さんは」と口にすると、小橋がふと「羨ましい」と呟いた。寅子に対する小橋の憎まれ口は、この感情から生まれていたのだろう。SNS上では、「小橋の『羨ましい』という吐露が切実で、とても良かった」「小橋の『羨ましい』 がよかった。 妬むとかじゃない、自然な心情がポロッと出てくる感じ」などの声のほか、直明が「みんなが新潟に行っちゃうのも寂しい!」と本音を明かした場面にも触れ、「直明の寂しさや、小橋の寅子に対する羨望を、男性の感情を丁寧に描くところが好きです」といった声もあがっていた。
(文=片山香帆)

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