「唯一無二」伝統の“菜種油”が消滅の危機…豆腐店が弟子入り、製法学ぶ 福島

食用の菜種油を会津で長年作り続けてきた江戸時代創業の老舗が、2年前、惜しまれつつもその歴史に幕を下ろしました。「老舗の味を未来につなぎたい」。立ち上がったのは、この菜種油をこよなく愛し、使い続けてきた豆腐店の店主でした。

昔ながらの手作り豆腐を菜種油で香ばしくあげた「厚揚げ」。福島県喜多方市にある「とうふ屋おはら」の、創業当時から続く人気商品です。

とうふ屋おはら 店主・小原直樹さん「すごくおいしい油なんで、油抜きするのがもったいないくらいで、油抜きせずに切って食べるだけでおいしいし、煮物にすると油のうま味が、煮物全体に広がっておいしくなるんですよ」

こう話すのは店主の小原直樹さん(65)。使っているのは天保12年、江戸時代から続く「平出油屋」の菜種油です。

唯一無二の菜種油 しかし…

いまでは全国的に珍しい「玉締め圧搾法」という昔ながらの製法で、焙煎した菜種からゆっくりと時間をかけ、搾り出された油です。手間がかかる一方、一般的なものと比べ油臭さがなく、小原さんは、継ぎ足し使っても油のうまみと香りが落ちにくいと話します。

とうふ屋おはら・小原さん「豆腐屋だけじゃなく、パン屋さんとかお菓子屋さんとかそういうところがバターの代わりに、くせのない油として、品のいい油として使っているところがたくさんありました」

唯一無二の油として、全国にファンがいるというこの「菜種油」。しかしいま、この油が残りわずかとなりました。そのわけは…。

菜種油がピンチ 立ち上がった小原さん

平出祐一さん「ここが菜種油を搾る工場です。2022年に廃業いたしまして、現在は動いておりません」

平出油屋6代目の平出祐一さん(77)。20歳で家業を継ぎ、55年間にわたり、油を作ってきました。

平出油屋・平出祐一さん「75歳を前に、やっぱり違う人生といいますか、違う世界を見てみたいということで」

高齢になったことなどを理由に、おととし、江戸時代から続いた181年の歴史に幕を下ろしたのです。

創業から平出さんの油を使い続けてきた小原さんは、廃業を聞き、ある決心をしました。小原さんは、豆腐屋のかたわら平出さんに弟子入りし、長年受け継がれてきた油の製法を一から学びました。

小原さん「結構厳しかったです。怒鳴られ怒鳴られ。動きが悪いというのを含めてなんですけど『そんなことも知らないのか』っていうことで」 平出さん「時間との勝負なので、その時点で早くしろとか、こうするんだとか、強く言ったかもしれない、私はあまり記憶がないですけど」 小原さん「言いました。ふふふ」

製造引き継ぐには1200万円の費用が…

休日返上で製法を学んだ小原さん。伝統継承へ一歩一歩進む中、大きな壁となっているのが事業資金です。製造を引き継ぐためには、機械を別の場所に移す必要があり、移設費や建物の改修費など、最低でも1200万円が必要です。自己資金だけでは足りず、小原さんは6月、クラウドファンディングを立ち上げ、全国に支援を呼びかけました。

6月23日には、地元の有志らとともに、平出油屋の菜種油を使ったパンやお菓子を販売。おいしさと共にその思いを伝えました。そして、小原さんと平出さんは会場に集まった人たちに、それぞれの思いを伝えました。

小原さん「お元気なうちに、教えてもらえるうちに、早く設備を作って来年、再来年と進んでいかないと、本当に消えてしまう。だからその辺のことを皆さんにお伝えして、ご協力していただきたいなと」

平出さん「息子ではないけど、代わりに継いでくれるのは本当にありがたい」

伝統の技術を継承しようと取り組む小原さん。

小原さん「周りからも応援しているよという声を聞いたり、その人たちが周りの人たちに話をしてくださっていて、確実に輪が広がっているなと感じています」

そのまなざしは、地域の未来を見据えています。

小原さん「一旦私が中継ぎになって、次の世代にバトンタッチしていきたいなと考えています。そして、この先ずっと残っていくと、会津の宝として残っていくといいなと思う」

クラウドファンディングは、7月末までとなっています。



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