アニメ『怪獣8号』×洋楽タイアップ:異例のグローバルコラボがあたたかく迎えられた理由

2024年4月から放送/配信され、6月末の最終回後には続編の制作が発表されたアニメ『怪獣8号』。この作品は、日本のアニメとしては異例となる、オープニングテーマ、エンディングテーマともに世界で第一線として活動しているアーティストが書き下ろしの楽曲を提供したことでも話題となった。両主題歌ともにアニメ・ファンから好意的に受け入れられることになった理由について、様々なメディアに寄稿される辰巳JUNKさんに解説いただきました。

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日本のアニメが世界的な主要エンタメに

今や、世界的ポップカルチャーになった日本アニメ。政府発表によると、コロナ禍に急成長した日本コンテンツの海外市場規模は、アニメとゲームが牽引するかたちで4.7兆円におよぶ。アジアのみならず欧米でも、日本式アニメーションを指す「anime」が若者文化に欠かせないジャンルになりつつある。2024年度Polygon調査において、習慣的にアニメを見ていると回答したアメリカのZ世代(90年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代)は40%をこえた。

「『怪獣8号』の洋楽タイアップは、日本アニメが世界的な主要エンターテインメントになりつつある状況を示している」(英メディアDexerto)

グローバル時代の新フェーズを告げるアニメこそ、2024年に放送・配信が始まった『怪獣8号』だ。日常的な災害のように怪獣が襲い来る日本を舞台にしたバトル大作で、原作は累計1,500万部 を誇る人気漫画。2024年の期待作とされたアニメは、アジア諸国で配信をてがけるNetflix において非英語作品ランキングのトップ10入りを複数回果たし、フィリピンで全体1位を獲得する快挙を達成 。アメリカの老舗アニメサイトAnime News Network においても週間最高のユーザーランク作品に輝いた。

 

日本アニメ×洋楽タイアップ:海外での反応は

そんな『怪獣8号』は、音楽面でもニュースをつくった。主題歌を提供したのは、なんと世界的スター。オープニング「Abyss」を歌うヤングブラッドは、アヴリル・ラヴィーンへの楽曲提供経験も持つZ世代のUKパンクロッカー。

エンディング「Nobody」を奏でるのは、ジャスティン・ビーバーやテイラー・スウィフトへの楽曲提供も行う大御所ライアン・テダー率いるUSポップ・ロックバンドのワンリパブリックだ。いわゆる欧米のスターが日本アニメのためにシングルを書き下ろすことは異例とされる。日本のアニメと洋楽の在り方を切り拓く、挑戦のコラボレーションだ。

もちろん、異例の挑戦にはリスクがつきものだ。担当アーティストが告知された際、海外アニメファンのあいだでは「日本のアーティストがやると思っていた」と驚く声も寄せられていた。たとえば、アメリカのアニメPodcast「Gotta Hate ‘Em」 では「ちょっと議論を呼ぶよね」と語られていた。

しかし、グローバルコラボにまつわる一抹の不安は『怪獣8号』が放送されたその瞬間に吹き飛んだ。ヤングブラッドによるオルタナティブロック「Abyss」は、前述のPodcast司会者より「最高のアニメOPのひとつ」と絶賛されている。

とくに視聴者の度肝を抜いたのは、壮大でダークな音楽と一体化しながら作品の世界観を描き出すCG映像。UK映画『007』シリーズ主題歌と比較されたイントロは、劇場映画にも負けない大作にふさわしい幕開けとなっている。

イマジン・ドラゴンズのダン・レイノルズ共作なだけあり、ロックファンを燃え上がらせるシャウトも特徴だ。TikTokでは『怪獣8号』アメリカ版キャスト が歌唱を披露したほか、メタル版カバーも好評を博している。

ワンリパブリックによる「Nobody」は、やさしい演奏が響く軽やかなポップチューン。海外SNSユーザーのあいだでは、ダンスのみならず、エンディング映像のように恋人や友人との思い出を載せる動画でも使われている。ライアン・テダーの場合、キャッチーに連呼される「Nobody(誰よりも)」にかけたお茶目なビデオ がお気に入りの模様。

 

世界で受け入れられた理由:主人公が負う使命とリンクする歌詞

異例のグローバルコラボがあたたかく迎えられた主因には『怪獣8号』の物語と魅力をたくみに解釈したソングライティングにあるだろう。ヤングブラッドがビデオに記したように、オープニングとエンディング、どちらも東京で制作された楽曲でもある。

I’ve gotta fight, Been thinkin’ that I need isolation
All this devastation, Head needs renovation, alright
闘うは僕の死命 孤立無援を覚悟して
破滅の予感に襲われて それでも頭を切り替えて挑め
(ヤングブラッド「Abyss」)

ヤングブラッドが着目したのは『怪獣8号』の主人公、日比野カフカの境遇だ。作中、さえない日々を送っていた彼は、あるハプニングをきっかけに、自分たち人類の敵である怪獣に変身してしまう。強大な力とひきかえに、人類から狙われれる危険因子になってしまうのだ。

カフカが経験していくドラマをあらわす言葉こそ「底しれない」「深淵」といった意味の曲題「Abyss」。怪物としての力への葛藤や不安が、ダークな曲調、破滅を予感する歌詞に反映されている。同時に、パワフルなこの曲が示すのは、仲間とともに戦いに挑む勇気だろう。

「自分の持つ隠れた才能やパワーを
自分自身では誇れなくも押さえつけないでほしい
誰もが美しいから」
(「Abyss」についてのメッセージ、ヤングブラッド)

人とはちがっていても、自分の個性を解放すること。これこそ『怪獣8号』の主人公が負う使命であり、ヤングブラッドが歌ってきたテーマでもある。「Abyss」とは、アニメ界とロック界、それぞれの新時代をになうヒーローたちの共演なのだ。

 

「大人の少年漫画」とワンリパブリック

When you need somebody to turn to
Nobody got you the way I do
The way I do
誰かに頼りたくなったなら
僕が誰よりも頼れる存在になる 誰よりも
(ワンリパブリック「Nobody」)

Z世代のヤングブラッドに対し、ベテランたるワンリパブリックのアニメソングはややサプライズだったかもしれない。しかしながら、その楽曲は『怪獣8号』とぴったりな相性を持っている。

1970年代生まれが集うワンリパブリックは、映画『トップガン マーヴェリック』挿入歌「I Ain’t Worried」によって新たな全盛期を迎えたポップロックバンドだ。日本でも大ヒットしたこの映画と『怪獣8号』に共通するのは、若さを失った大人ヒーローものということ。ティーン主人公の人気アクション漫画が多いなか原作版『怪獣8号』がかかげたのは「大人の少年漫画」 。

主役となる日比野カフカは、防衛隊員というヒーローに憧れながらその夢を一度諦めてしまった32歳の清掃員なのだ。挑戦的な同作は、リリース早々、編集部の予想をこえて幅広い年代に愛されていったという。

日本文化とスーパーヒーローをこよなく愛する40代のライアン・テダーも、主人公に強く共感して憧れた読者の一人だった。バンドの熟練が生かされた「Nobody」で表現されるのは、若者から中年までそろった防衛隊員たちのエネルギー。ライアンがやさしく歌う「人を守りたい」決意は、年代や国境をも超えるヒーローの条件だ。

「Nobody」収録アルバム『Artificial Paradise』を2024年7月にリリース予定のワンリパブリックは、8月のサマーソニックでの来日ライブも決定している。世界を席巻する『怪獣8号』の熱はまだまだつづきそうだ。

Written By 辰巳JUNK

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