MIYAVI×成田悠輔 音楽の未来から社会課題まで異色対談は大暴走「音楽の話をしに来たけど、何の話ですか、これ」

経済学者の成田悠輔が、今最もしゃべりたいゲストと本音で語り合う対談番組『夜明け前のPLAYERS』。この日、ギターを片手に登場したのは日本が誇る世界的なギタリスト・MIYAVI。ライブだけでなく、SNSの先駆けともいえる『Myspace(マイスペース、2003年開始)』の時代からネットを介した音楽発信でワールドワイドな活躍を行っている。話題は、テクノロジーの発展と音楽の関係……と思いきや、同世代の2人の会話はあらぬ方向に暴走していった。

テクノロジーに対峙(たいじ)して改めて思う「俺たちがこだわってきたことは正しいのか」

「ビジネスとして見ると、音楽は大変になりすぎていませんか」。成田の問いにMIYAVIは「もう大変ですよ。AppleのiPodが出てきた段階で、(音楽の)あり方が変わらざるを得なくなりましたよね」と返答。

「でもそれは、いつの時代もあったと思うんです」とアメリカでMTV(※)が始まった頃、それまでラジオやレコードで戦ってきたミュージシャンたちが、ミュージックビデオ(ビデオクリップ)で戦わなければならなくなった時と似ていると話す。
※MTVは、音楽のビデオクリップを24時間流し続ける音楽専門チャンネルとして1981年に開局。

ただ成田は「レコードからラジオ、ビデオという変化は数十年に一回といったペースで起きていた。それが今は(音楽を提供する)プラットフォームが5年や10年で一変している」と変化のスピードに言及。「Myspaceで発信していた時代と、YouTubeが中心の時代やTikTokで配信する時代とでは、違う物理法則の宇宙に投げ込まれたみたい」とアーティストたちの苦境を代弁する。

MIYAVIも「しかもAIが入って来たでしょ」と追随。さらに「例えばDJはバックパック1つで、音源が入ったUSBさえあればどこへでも行け、すぐに音楽の場を作ることができる」と、大量の機材を持って移動するライブツアーと比べ、テクノロジーが物理的側面に与えた影響で音楽シーンも変わってきていることを指摘した。

フットワークよく旅するためにギターは1、2本だけ。しかもエレクトリック・ギターのほうは1本でいろいろな演奏ができるよう改造。リアルな音を届けるために工夫を重ねてきたMIYAVIは「価値観というか。俺たちがすごくこだわってやっていることが、今の音楽業界で正しいかと言うと、そうじゃなくなってきている部分もある」と吐露した。

AIにヒット曲はまだ無理? ターニングポイントは「感覚や感情が完全に数値化された時」

話題は音楽業界の未来予測に移る。MIYAVIは「AIが音楽を作れても、AIがヒット曲を作れるようになるにはまだ時間がかかると思う」と話す。鍵になるのは「感覚や感情が完全に数値化された時」。

その根拠は「曲って、完璧なものだけが売れているわけじゃない」ということ。曲中のストーリーが人の感情を動かすのはなぜかといったことの数値化を挙げてMIYAVIが語ると、成田は曲の作り手側の数値化に話を広げる。「“この曲の背後にはMIYAVIさんがいる”というタイプの音は、背後にあるものが複雑すぎて簡単に数値に置き換えられないですよね」。

そのため「長い目で見ると楽曲そのものの重要度や付加価値が落ちて、音楽を演奏したり作ったりするミュージシャンがどんな人なのかとか、どんなふうに生きてきたのかといった物語の重要度が上がるのではないか?」と成田。

「それは、今も上がっていると思います」と言うMIYAVIは、「例えば(ライブで)歌詞をちょっと間違えたとか、ステージ上で転んだとか、うっかり泣いちゃったとか。そういうことがすごく心に残るのは、人として生まれてきた僕たちだからこそ」と、AIで完璧なものが作れるようになればなるほど、完璧でないものの希少価値が上がると予想した。

すると重要なのはストーリーの作り方だ。成田は、ホワイト化した現代社会でミュージシャンたちは、昔のような伝説を作りにくくなっているのではないかと危惧する。「20世紀のミュージシャンには、社会から逸脱しているとか危ない感じといった典型的なイメージがあったじゃないですか。今世紀のミュージシャンにとって、どういうことが彼らを象徴する伝説的エピソードになるんでしょう」。

「逆に俺も聞きたいくらいです」とMIYAVI。「人って経験したことのないものとか、知らないこと、自分ができないことに憧れる。その象徴が昔だったら、例えばジャンクフードやタバコだったでしょ。ただそれが今、格好いいかと言うと(そうではない)。悪くて格好いいということの定義が変わってきていますよね。シリコンバレーのIT起業家のほうが、俺より絶対たくさんパーティーしていると思う」と、ロックミュージシャンではない人たちのほうが“悪くて格好いい”を実践していると語った。

「それが特に日本で重大な問題だと思うんです」と成田。MIYAVIが例に挙げた人たちは主にアメリカの文化の中にいると指摘し「アメリカの政界にはドナルド・トランプ、ビジネス界にはイーロン・マスク、カルチャーの世界にはカニエ・ウェストと “何でも有り”の20世紀っぽい暴走系の人が前線にいる」と話し、日本には良くも悪くもそういったリーダーはいなくなったと社会課題に触れる。「彼らのような暴走が許されなくなった日本だからこそできることは何なんだろう」と成田は再びMIYAVIにボールを投げた。

ロックミュージシャンの有り様を通して見える世界課題「スーパーパワーの使い方が問われている」

「それは日本だけじゃなくて、世界的なことだと感じている」とMIYAVI。暴走ができなくなった理由として「匿名でものを言える時代。これはデカいと思うんですよ。メディアも視聴者の意見を聞く。聞くのは当たり前なんですけれども、パワーバランスが変わってきていますよね」。

その言葉に成田も「匿名で、存在しているかも分からない有象無象の声を聞くようになっているのは、すごく不思議なことですよね」と再認識。ネット炎上も、その実態は存在しているかどうかも分からないと語り、「発信する側の声や音量はどんどん大きくなっているけれど、聞く側の耳の力は変わっていないという問題がある」と指摘した。

現代は、教科書に載っているような情報と、SNSの匿名アカウントが書いた情報が同等に価値あるもののように頭に入ってくる時代。そのため、SNSの話は1/10程度に聞くといった「(聞く側の)教育自体が変わらないといけないんじゃないか」と成田。

3人の子どもを持つMIYAVIも常々、子どもたちに情報の収集の仕方と処理の仕方を説いていると言う。「自分なりに(情報を)キュレートして、しかも偏りすぎずちゃんと集め、それをどう処理するのかというのは学校でやったほうがいいですよね」。

さらに成田は、誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)に耐える力を鍛える授業も大事だと提案。「僕たちは、ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)がギターを鳴らした時に“何だこれは!”とスーパーパワーを感じたけれど、今はスマホがスーパーパワーじゃないですか。このパワーを僕たちがどう使うかが問われている」とMIYAVI。

それぞれが未来に思いを馳(は)せた一瞬、2人に沈黙が訪れる。とMIYAVIが我に返ったように「何の話ですか、これ。音の話をすると思っていたんですけど(笑)」とスタジオを沸かせた。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が、MIYAVIが披露した即興のスラップ奏法などを含め配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
公式HP:PLAY VIDEO STORES
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写真提供:(C)日テレ

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