【湘南】今季初の公式戦2連勝の背景にある“ポゼッション化”。下位脱出への道は切り拓けるか

[天皇杯3回戦]湘南 1-0 東京V/7月10日/レモンガススタジアム平塚

3-2で逆転勝ちしたJ1第22節の浦和戦から中3日、湘南は天皇杯3回戦で東京Vと対戦し、1-0で勝利した。

今季初の公式戦連勝を果たした一戦で収穫だったのは、浦和戦からスタメンを9人入れ替えて臨んだうえで白星を掴んだ点だろう。今季から取り組む新たなスタイルがチーム全体に浸透してきたという証明になった。

2021年の終盤に山口智監督が就任してから昨季までの湘南は、基本システムの3-5-2でハイプレスとショートカウンターを主武器とした戦い方を貫いていた。2トップからの守備で片側のサイドに相手のパスを誘導し、サイドボランチ(インサイドハーフ)とウイングバック、アンカーが連動して対応。泣き所となるアンカー脇のスペースは3バックの両脇(ストッパー)が前に出て潰すという、アグレッシブなシステムだった。

ただ、今季は4-4-2の新フォーメーションをオプションとして準備したうえで、“我慢”をキーワードに自陣でブロックを組む時間を増やしている。ボックス内で身体を張って守り切るのも“我慢”。また、プレスに行きたい場面でも、後ろの選手が連動できない状況なら声をかけ合ってプレスを制限するのも“我慢”だ。

もちろん、プレスをかけるべきタイミングには、機を見て昨季までのような守備を実行するが、「それをやり続けるのは現実的に難しい」というのが指揮官の考えであり、新たなスタイルを導入した要因なのだろう。試合終盤の疲弊が多かった昨季の反省を踏まえて、90分を通じた体力面のマネジメントをしつつ、より強固な守備を築きたいという狙いだ。

また、攻撃面ではポゼッションを強化。後方のビルドアップで左右どちらかのストッパーに相手を引きつけてから、フリーになったウイングバックやサイドボランチに楔を打ち、2トップの一角やアンカーが素早くサポートしてサイドを打開する。

これも「ボールを握れば守備の時間が減って、体力的な消耗も少なくなる」(鈴木雄斗)という、守備戦術の変更と同様の理由で導入した、新たなスタイルだ。

【PHOTO】“湘南のために!”最後まで声援を送り続けた湘南ベルマーレサポーター!(Part1)
シーズン序盤は攻守両面で選手同士の理解度に差があったように見えた。相手の戦い方や試合ごとの人選によって特長が変わるのは当然かもしれないが、チームの根幹部分を共有し切れていないようなゲームも散見されたし、実際、シーズンの前半戦のほとんどをJ2降格圏付近で過ごすなど、結果が出ずに苦しんだ。

だが、試合のたびに進化は見られた。19節の名古屋グランパス戦(1-1)や、20節のFC東京戦(0-1)では、勝利こそ掴めずも、ポゼッションで相手のプレスを剥がしながら決定機を演出。今季から導入した戦い方において、特に攻撃面の歯車が噛み合い出した印象だった。

流れが変わった要因には、怪我の功名もあった。3バックの中央を務めた主将のキム・ミンテが5月半ばに負傷。代役にはアンカーやサイドボランチが主戦場だった鈴木淳之介が抜擢された。キープ力と展開力に優れる20歳は、18節のガンバ大阪戦(1-2)や天皇杯2回戦の甲南大学戦(3-1)で先発すると、リベロや左ストッパーで存在感を発揮。攻撃面で違いを見せて、チームの“ポゼッション化”を勢いづけた。

すると、鈴木淳と同様に攻撃面に長所を持つ髙橋直也が右ストッパーでスタメンの座を射止め、3バックの両脇からの配球が安定。そのうえ、中央にはキム・ミンテが負傷離脱から復帰した。この3人が初めて同時に先発した浦和戦は、2失点を喫したものの、正確性が増したビルドアップが奏功し、3ゴールを挙げて実に7試合ぶりの勝利を収めた。

続く東京V戦の3バックは右から大岩一貴、大野和成、松村晟怜と、浦和戦から全員が入れ替わったが、後方のビルドアップは安定していた。大岩と大野は、本来は守備に強みを持つ選手で、髙橋や鈴木淳に比べれば攻撃面への関与が得意なタイプではないが、正確なパスや相手を引きつけるプレーを見せられたのは、日頃の取り組みの賜物だろう。

大野の「ビルドアップは日頃から求められている。苦手な部分ですけど、自分の引き出しが増えれば、もっとチームの力になれる」というコメントから、チームが変化している点と、選手たちが新たな戦い方に適応するためにチャレンジしていることがうかがえる。

新たな戦い方を実現するために選手個々が奮起してチームが変化。その成長が結果につながった浦和戦と東京V戦の連勝は非常にポジティブだ。リーグ戦では19位といまだ苦しい状況に変わりないが、巻き返しへの準備は整ったように感じる。毎試合、自分たちは間違っていないと信じて戦えば、下位脱出への道も切り拓けるはずだ。

取材・文●岩澤凪冴(サッカーダイジェスト編集部)

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