『新宿野戦病院』第2話 「死にたい」と「死ぬ」の間に割り込む覚悟と、ドラマとしての楽しさの意義

小池栄子が“歌舞伎町の闇医者”を演じるクドカン最新作『新宿野戦病院』(フジテレビ系)も第2話。雑多でハイテンションで楽しくて深刻で、いいですね。何しろクドカンが伸び伸び書いている感じがよく伝わってきます。「大人計画」の盟友・平岩紙も久しぶりのクドカンドラマで楽しそう。

振り返りましょう。

■「死にたい」と「死ぬ」の間にあるもの

今回、登場した歌舞伎町の住人は、人気ホストとそのエースであるホス狂、それにOD癖持ちの家出少女。いずれも風林会館周辺を15分も歩けば目にすることができる典型的な方々です。

エースとOD少女はどちらも日常的に、望まない性的接触を繰り返している。その2人の女性の希死念慮についてのお話でした。

1,000錠飲んでも死なない市販の鎮痛剤を40錠ほど、イチゴミルクで流し込んで闇医者・ヨウコさん(小池)たちが勤める搬送されてきた17歳の少女は、目が覚めるとケロッとした顔で院内を徘徊。ヨウコさんに見つかると、「おなか空いちゃって」と肩をすぼめます。

そこらへんにあったペヤングを作ったものの、少女は結局ひと口も食べません。ちょっと味見したヨウコさんがその美味さに驚愕し、結局ペロリと平らげてしまいます。

「OverDose(オーバードーズ)……」ペヤングを食べきった英語話者のヨウコさんはそうつぶやき、ドラマはそれに「食べ過ぎた」とだけ字幕を乗せました。

エースの女性は、担当の売り上げのために風俗で働いていました。しかし何もかもが嫌になり、5階建てのビルの屋上から飛び降りるといいます。そこに居合わせたヨウコさんは、「この高さでは30%しか死なない」という事実とともに、後遺症の症例を写真付きで女性に見せます。どれもひどいものです。昔、クドカンと一緒に大きな仕事をしたことのある俳優が、マンションの9階から飛び降りて生き残ったことがありました。このシーンを書いたとき、クドカンの頭にその俳優のことがあったことは間違いありません。

こうしたシーンが、ドラマの豊かさだと感じるわけです。テレビドラマという限られた時間の尺を、贅沢に使っている。こうした豊かなシーンに心を揺さぶられると、隙間が生まれるわけです。そうして生まれた隙間にメッセージを流し込まれることで、ヨウコさんの言っていることが心の中に残っていく。

「死んでもいい」と言う少女に、ヨウコさんはペヤングをむさぼりながら「わしは悲しい」と断言します。自分はたくさんの人間が死ぬところを見てきた。心臓が止まり、息が止まり、冷たくなる。それがつらい。だから、「おめえ死んだら、ぼっけえ悲しい」。

ホス狂の女性は、飛び降りて未遂に終わった人たちの症例を見せられて「死ねないんですか?」とヨウコさんに尋ねます。

「死なん。ここにわしがおるからじゃ」

女性は「やめよっかな」と思いとどまることになります。

2人の女性は、それぞれに「死にたい」と思っていました。そしてそれぞれに、「死にたい」と「死ぬ」との間に距離がありました。

「死にたいとか言って、どうせ死なないだろ」と言うのは簡単です。実際、ほとんどの人は死にません。でも、何人かは死んじゃう。ホントに死んじゃう。大人になると周囲にそういうことが起こるし、だからこの女性たちの「死にたい」と「死ぬ」の間に全力で割り込むヨウコさんの姿が刺さってくるのです。

■ドラマは道徳の先にある

家出少女は母親のタトゥー彼氏と、エースの女性は風俗客と、それぞれ望まない性的接触をして、その結果として魂を食われている。

家出少女はトー横に立ち、薬局から鎮痛剤を万引きして、ODを繰り返している。エースは風俗で稼いだ金を、大して男前でもないホストにつぎ込んでいる。どちらも愚かな行為だし、まともじゃないし、道徳的じゃないし、夜の歌舞伎町に入り浸るというのは、そういうことです。

20年くらい前には当時の石原慎太郎都知事のもとで「歌舞伎町浄化作戦」と銘打たれた治安回復の動きもありました。

『新宿野戦病院』は、浄化される側を描いたドラマです。浄化する側として登場したNPO代表の舞ちゃん(橋本愛)は人気SM嬢としてHPで顔出ししています。そして、自らの愚かさを自嘲するホス狂風俗嬢に、こんなことを言うのです。

「達成したい目標が明確にあって、それにはお金が必要で、そのために自分のスペックを最大限に活用して、全然バカじゃないし、筋通ってるし、感情むき出しで、いいと思う」

ここで言う「スペック」って、重い言葉だなと感じるんですね。ホストに貢ぐほど稼げるのは嬢としてのスペックがあるからで、ホス狂の行為を肯定すると同時に「だから被害者ヅラしてんなよ」ということも言っている。「戦ってるし、戦えてるだろ」と言っている。筋が通ってなくて、偽りの感情ばかりのこの街でそうやって生きている人たちを、『新宿野戦病院』は描こうとしている。そういう宣言だったと感じました。

なんかね、いろいろあるけど、こういうメッセージって、基本楽しくないと耳に入ってこないのよね。だから、このドラマが楽しいことが救いになる。鼻歌少年のエピソード、最高に楽しかった。まあ今回は、そんな感じで。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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