皮膚におでき、イボが…麻酔下切除や病理検査に誘導する動物病院の狙い【ワンニャンのSOS】

イボはもうニャイニャン

【ワンニャンのSOS】#70

ネコちゃんもワンちゃんも、皮膚におできのようなものができて気にすることがあります。当院でも、かかりつけの飼い主さんが「これは何ですか?」とわが子を心配して受診されることが少なくありません。そういうかかりつけの方はよいのですが、気になるのはセカンドオピニオンなどで転院で来られるケースです。

「悪いものかもしれないので、麻酔をして切除した上で細胞の組織を調べる病理検査をお勧めします」

元の動物病院でよく言われるのがこのセリフ。本当にそこまでのことが必要なのか判断に迷った方がウチに来られます。確かにおできやイボなどには良性も悪性もあり、最悪の場合は、悪性腫瘍のがんです。皮膚にできる悪性腫瘍は病名としてたくさんあり、たとえば悪性黒色腫は、がんが正常組織を侵食するように広がり、1週間で2倍くらいに拡大するので進行も速く、要注意です。

しかし、複数の病気を含む悪性腫瘍でも、いずれもレアケース。特に10歳未満なら、ネコちゃんもワンちゃんも極めてまれです。最悪の可能性はゼロではないとはいえ、いたずらに「悪いもの」をあおる説明がよいとは思えません。

経験を積んだ獣医師なら、10歳未満のネコちゃんやワンちゃんでかかりつけの場合、患部を目で診て、触診して、飼い主さんの話も総合することで、経験的にまったく悪いものではないと診断できることはしばしばあります。良性なら、「悪いものではありませんよ。安心してください」とハッキリと伝える方が、私はよいと思います。

もし悪性の可能性があったとしても、クリニックレベルの小規模な動物病院では病理診断医がいませんから、組織を検査機関に送って診断してもらうため、診断まで早くて4、5日。前述した悪性黒色腫のような進行の速い腫瘍では、このロスが致命傷になりかねません。この点でも、病理検査への誘導は、疑問が残ります。

では、どうするか。怪しいと判断したときは、麻酔をして1回でその部位を丸ごと切除した上で病理検査をしてもらうのが最短です。その場合、細胞の悪性度だけでなく、血管への浸潤の有無もチェックしてもらうことが欠かせません。血管への浸潤があると、遠隔転移のリスクが高くなるためです。

逆にいうと、たとえ皮膚の悪性腫瘍でも血管への浸潤がなければ、予後はそれほど悪くありません。1回での切除が早期治療に結びつき好結果を生んでいると思います。

麻酔下での切除や病理検査を行えば、一見、飼い主さんはわが子をとても大事にしてもらっているかのような気分になるかもしれませんが、その対応は必ずしも適切ではありません。麻酔下切除や病理検査への誘導は、売り上げを期待した可能性もあることは覚えておいてよいでしょう。

(カーター動物病院・片岡重明院長)

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