認知症特有の幻視によって見えたものを描き、記録として残している男性がいる。
素朴に描かれた動物などには愛嬌(あいきょう)があり、とかくネガティブにとらえられる病気のイメージとは異なり、ほのぼのとした世界観を醸している。
男性の作品約700点が並ぶ企画展が6日まで、平塚市美術館で開かれている。
作者は、2年前にレビー小体型認知症と診断された東京都大田区の三橋昭さん(72)。
自宅で飼い猫をなでようとしたら手がすり抜けたため、異変に気付いた。その後も存在しないものがほぼ毎朝、目覚めると数秒間現れるようになったといい、日記として見たまま絵に残すようになった。
認知症患者は奇妙な幻視に悩まされることもあり、三橋さんも刃物を持った女性などが現れたことがあるという。
一方で、ビルを背負って自転車をこぐブタや、カードゲームをするウサギやロボットなどおとぎ話のような幻視も多く、花や文字、幾何学模様なども見えるという。
「毎日、どんな幻視が現れるのか楽しみ」と笑みを浮かべる三橋さんだが、当初は治す手だてがない病気に不安を募らせた。
しかし、患者やその家族らと交流を続けるうちに「せっかく認知症になったんだから楽しもうと思えるようになった」という。そうした前向きな思考が、絵を描き続ける原動力となっている。