仕事の依頼内容やアイデアの中身をできる限り正確に伝えたい場合、どんなやり方で伝えるのが効果的か? マネジメントのプロ横山信弘氏は「オンラインのテキスト一択」だと語ります。今回は、横山氏による著書『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)から、その理由について詳しく解説します。
正確に伝えたいなら、どんな「やり方」が効果的?
結論から書こう。相手に何かを伝えたいときは、オンライン一択だ。オンラインという
よりも「テキスト」と表現したほうがいいか。
・言語コミュニケーション
・非言語コミュニケーション
の違いを頭に入れておけば、この区別はしやすいはずだ。
仕事の依頼内容、アイデアの中身を、できる限り正確に伝えたい場合、私がおススメする「やり方」は、次の順番である。①チャット、②メール、③オンライン会議、④リアル会議(面談)、と考えている。
理由は次の4つである。
(1)非言語情報がカットできること
(2)編集ができること
(3)何度も確認できること
(4)後に残ること
まず(1)が最も重要だ。相手の表情や態度、姿勢といった非言語情報が入ってくると、正しく言語情報を受け取ることが難しくなる。
たとえば部長がリアル会議で「上半期3つの方針」について20分ぐらい話したとしよう。話し終わった後、おそらく「何か、質問があるか?」と尋ねても、ほとんど誰も質問しないはずだ。「わかったか?」と部長から言われたら、たいていのメンバーは「わかりました」と即答する。これがよくあるリアル会議の光景である。
このような会議に20年近くコンサルタントとして出席して、わかっていることは、ほとんどのメンバーは部長が話したことを頭に入れていない、ということだ。
過去に何度も「出口調査」をしたことがある。今回のケースでいえば、会議室の出口に立って、1人1人のメンバーにインタビューするのだ。「部長が話された上半期3つの方針は理解できましたか?」「はい。よく理解できました」「具体的に、どんなことを理解できましたか?」「えっと、それは……」
方針に基づいた具体的な行動について覚えている人は、かなり少なかった。それどころか、3つの方針すら記憶していないメンバーすらいた。会議が終わった直後だというのに、である。
これを聞いた部長は、「こんなに意識が低いメンバーばかりだとは、思わなかった」こう言って、ひどく落胆した。だが、当然といえば当然だ。部長という肩書きは「非言語情報」だ。リアルで会えば、どんなにフランクに話されたとしても緊張する。部長が醸し出す権威性やオーラみたいなものを無視できる人は少ない。
「気にしないで、ドンドン質問すればいい」と部長は言うだろうが、簡単ではない。
会話の「キャッチボール」ができる手段を選ぶ
それにしても、口頭で話すと何が問題なのだろうか?
それは、話がまとまらないことだ。これは文字起こしをしてもらえれば、わかる。話した言葉をそのままテキストに変換してみたらいい。今ではAIの音声認識機能を使えば簡単にできる。私も過去、多くの取材を受けた。理路整然と話したつもりだが、話した内容をそのまま文字にされた文章を読んで、かなり失望した。私の話し方がヘタなだけかもしれないが、それにしてもヒドイ結果だった。
原稿を事前に用意しておくか、TVキャスターのように毎日鍛錬しない限り、わかりやすく話すことは非常に難しいのである。
だから、(2)の「編集ができること」というのは、とても大きな利点だ。
部長に対して若いメンバーが質問したとする。その質問が的を射ていたらいいが、そうでなかったら、「何の質問をしてるの?」「君は、何を言っているのか、自分自身でわかってる?」と言われてしまうかもしれない。
しかし、テキストベースのチャットやメールだと、テキストを打ち込んでいる最中から編集できる。送信する前に読み返すこともできる。部長が話すこと、メンバーが質問すること、それぞれの内容を思いつくまま口頭で放つより、落ち着いて編集できるチャットやメールのほうが正しく伝わるのだ。
大事なことは「対話」すること。言葉のキャッチボールをすることだ。だから(3)の「何度も確認できること」も大事なのである。
目的(幹)は相手が理解すること、納得すること、認識のズレがなくなることだ。1回や2回のキャッチボールで、「ほぼ理解できた」という状態に持っていくことは不可能である。話し手は、聞き手がキャッチしやすい球を投げること。そして聞き手も、話し手がキャッチしやすい質問を返すことだ。
特に、まだ経験の浅い若者に何かを伝えるときは、球を投げつけてばかりではいけない。ちゃんとキャッチボールできることが重要だ。メールよりもチャットをお勧めするのは、リアルタイムにキャッチボールがしやすいツールだからである。
「メールで書くより、話したほうが早い」という屁理屈
情報共有することはすべて、口頭で伝えるべきではないと私は考えている。口頭で話すというのは、空中に言葉を放っているようなもの。空中に舞った紙吹雪をすべて捕まえられないように、放たれた言葉をすべて把握することはできない。
私はコロナ禍になってから事前に文書や動画を作り、それを相手に送ってから1対1で話すようにしている。そこまでできないなら、少なからず(4)の「後に残ること」を意識してコミュニケーションをしよう。
チャットでもメールでも、文章として蓄積される。オンライン会議のツールを使えば、録画して残すことができる。「部長は途中で何と言っていたのか。メモが追いつかなかった」という場合、録画したオンライン会議の様子を再生させればいい。「たしか、会議が始まってから10分ぐらいに言っていた」と思うなら、倍速で視聴して、その個所を後で見つけたらいい。
たまに、「メールで書くより、話したほうが早い」と言う人がいる。しかし、これは屁理屈だ。幹(本質)ではなく、枝や葉っぱにしか意識が向いていない。デジタルやオンラインのツールを嫌がる人は、・覚えていないだけ・慣れていないだけである。
若者と同じ目線でコミュニケーションするためにも、まずは覚え、慣れるところからだ。それもしないで否定すると、信頼関係は生まれない。
横山 信弘
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長
経営コンサルタント
※本記事は『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。