『白薔薇殺人事件』など発売前の注目作も! 東京創元社の本4500冊を直売「創元 夏のホンまつり2024」レポ

その数およそ4000冊。出版社の東京創元社が東京都新宿区にある本社の駐車スペースを使い、刊行している書籍や雑誌を並べて販売する「創元 夏のホンまつり2024」が7月5日と6日に開催となり、書店での発売を目前にした新刊や店頭に並んでいないシリーズの既刊本、推しの作家によるサイン本、そして人気キャラクター「くらり」のグッズなどを求める本好きの人たちが訪れた。

JRや東京メトロの飯田橋駅からほど近い場所にある東京創元社の本社。1階部分に間口を開いた駐車スペースの中に、棚がしつらえられて文庫や単行本が並べられている。ミステリやSFに強い出版社だけあって、そうしたジャンルのファンが初日から大勢訪れていたようだった。ミステリもSFも、日常的に本を読んでいるファンが多いジャンルだが、「創元 夏のホンまつり」の会場は書店ではあまり見かけない本も置いてあるため、探し求めに来るファンも少なくないという。

「東京創元社が刊行している本をまとめて見ていただけることが特徴です」。東京創元社の代表取締役社長で、2017年にこの「ホンまつり」が始まった時の発案者でもある渋谷健太郎氏もそう話して、出版社が直接店を構える形で本を販売する機会を設けた意味をアピールした。プロの作家や評論家も訪れることがあるそうで、そうした本好き中の本好きでも満足できる品揃えになっていると言える。

営業部係長の笛木達也係長によると、「書店では文庫の場合、どうしても4段から8段くらいしか場所をいただけません。書籍も作家名やジャンルごとに並べられてしまいます」。大勢の人の目に触れる機会にはなるが、やはり新刊が中心となって過去作などは取り寄せの注文を出すか、ネット書店で探して購入することになる。その点、「ホンまつり」なら来ればその場で過去作も見つけることができる。棚で見つけられなくても、バックヤードから探して持って来てくれるから、何日も待つ必要がない。

「書店に並ぶ前の本も、ひとあし早く買うことができます」と編集部課長兼WEB事業室室長の宮澤正之氏。会場には実際に、7月11日刊行のクリスティン・ペリン作、上條ひろみ訳『白薔薇殺人事件』、泡坂妻夫作『乱れからくり【新装版】』、アン・マキャフリー作、嶋田洋一訳『歌う船[完全版]』が置いてあって、ミステリやSFのファンの目を引いていた。

東京創元社の創業70周年を記念したフェアのために用意された、特別なカバーや推薦の帯がかけられた文庫も、フェアの開催月をまたいですべて並べられていた。そこには、7月開催予定のフェアのために、『BLUE GIANT』の石塚真一が表紙絵を描いた田中啓文『落下する緑』、『トライガン』の内藤泰弘による表紙がついたロバート・A・ハインライン『ルナ・ゲートの彼方』、『ブルーピリオド』の山口つばさの表紙による紅玉いづき『現代詩人探偵』もあって、それぞれの作品の世界を漫画家たちの絵から感じ取ることができた。

お祭りということで、楽しげな企画も満載だ。「国内ミステリ編集者が選ぶこの凸凹コンビが好き!セット」「校正課員が選ぶズシンと響く本文200ページ以内セット」といった名称で、袋詰めされた本がセットで販売されていた。何が入っているかはお楽しみ。作者名やタイトルからではあまりたどり着くことがない本に出会える機会を与えてくれている。夏だからか「オカルト好き営業部員が選ぶ暑い夏に涼を取るホラーセット」はすぐに売れた模様。もっとも版元だけに、在庫があればすぐにセットを組んで棚だし出来るところも直販イベントの強みだろう。

こうした現場で来店者の姿を見ることは、どのような本が売れ筋なのかを知ることにもつながる。また、「現場で伺った話をグッズなどの商品開発に繋げることもあります」(宮澤課長)。東京創元社が創業60周年の際に制作し、やがて公式キャラクターになった「くらり」が描かれたグッズの中には、そうした声を聞いて作られたものもあるという。「ホンまつり」にはグッズのコーナーも用意されていて、熱心なファンが見入ったり購入したりしていた。

会場には、米澤穂信の小説シリーズを原作にして、7月6日から放送スタートのTVアニメ『小市民シリーズ』のポスターも貼られて、東京創元社発の作品がメディアを超えて広がっていることを印象づけていた。また、アガサ・クリスティーの作品に関するクイズに挑むイベントも行われていて、東京創元社の読者に多いミステリーファンの挑戦意欲を誘っていた。1カ所で版元の特徴を見てもらえる場として、こうした取り組みはなかなか有効なようだ。

2017年に第1回を開催し、コロナ禍だった2020年と21年は中止したものの2022年から復活した「ホンまつり」。毎回500人近い来場者があって、支持の高さを示している。回数が増えればファンは喜びそうだが、社員が総出で取りかかっていることもあり、今は年に1度が精一杯。「秋は神保町ブックフェスティバルがあります。そちらでは、東京創元社を余り知らない人が、立ち寄っていただける機会となっています」(笛木係長)。ほかにも「2月には新刊ラインナップ説明会を開いて読者の方を招待しています」(宮澤課長)。読者に直接届くチャネルをいろいろと作って、活動を伝えていっている。

地方での開催を望む声もありそうだが、倉庫から運んできて並べるため、地方へと持っていくことは難しい。そこは、地方も含めた書店でのフェアを展開することでカバーし、グッズ類はウエブを通した販売を行って、全国からの要望に応えていく。

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