パリ【女ひとり旅】サンジェルマン・デ・プレの街歩き&カフェでお茶を 中道あんさん流

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「いつか時間とお金ができたらパリに行ってみたいなぁ」そんな思いをついに叶えた、トップブロガーの中道あんさん。パリひとり旅は、「60歳になった自分に自分でお祝いがしたい」という気持ちから始まりました。パリで一番したかったこと、サンジェルマン・デ・プレの街歩きについて、話題の新刊『ビバ!還暦 60歳海外ひとり旅はじめました』からご紹介しましょう。

★ひとり温泉旅行のすすめ★

パリで一番したかったこと ! サンジェルマン・デ・プレの街歩き

パリ6日目の朝を迎えた。正直、あっという間だった。私がしたかったのは、毎日のようにカフェでお茶することだったのだが......まだ1回だけという、「何してんねん!私」である。「今日こそ!お茶したい!」と窓から外に目をやると小雨模様 だった。トホホである。

雨が降っているとカフェのテラス席でお茶をするのは難しいなぁ、なんて思うけれど。とりあえずホテルを出ることにした。オペラ通りからカルーゼル広場を目指して直進し、ルーヴル美術館のピラミッドを横目にしながらセーヌ川を目指す。ポン・デ・ザール橋を渡ってセーヌ川沿いを少し歩いて、サンジェルマン・デ・プレに向かうとカフェ「レ・ドゥ・マゴ( LES DEUX MAGOTS)」がある。

創業は1884年にまで遡るが、ヘミングウェイやピカソ、サルトルなどの多くの文化人が集まった老舗カフェだ。ちょうど雨が上がり、地面は濡れているけれど、テラス席にも人が集まってきている。私の目の前にいたムッシュがテラス席に座ったので、私もあとからついていって隣のテーブルの椅子に座ってみた。内心「勝手に座んな」というぞんざいな扱いを覚悟して(笑)。チラッとこちらを見るギャルソンの目が冷たいように感じた。

ちなみに、カフェの基本ルールはこの店で見よう見まねで覚えた。

注文の仕方:ギャルソン(店員)が注文を聞きに来るまで待つ。呼ぶときは手を上げて「ムッシュー」と声をかける。

お勘定:テーブル担当のギャルソンにする。ほかの人に声をかけても「あとで」とか「無視」されてしまう。急いでいるなら飲み物を持ってきたときに、その場で支払う。

私が座ったあとから、どんどんお客さまが増えだして行列ができた。おなかがまったくすいていなくて、タルトタタンが有名だそうだが食べられそうにもない。隣のテーブルのムッシュは、オムレツとクロワッサンを頼んでいて朝食のようだった。そのお隣は、ビールを飲みながらクロックマダムを食べていた。食事をするとテーブルにはクロスがわりのペーパーシートが敷かれるようだ。コーヒーだけ注文した私には何 もない......。

これが日本だったら「え?なんで私にはないのん?」と絶対聞いているけれど、言えない自分がもどかしい。パリのテラス席には、アジア人は座らせてもらえないという都市伝説を信じていたので、「私だけ差別された!」といじけていたが、今思えばきっと何かルールがあるのだろう。

この店の並びには、同じように老舗のカフェ「カフェ・ド・フロール(Cafe de Flore )」がある。おいしいコーヒーを飲みたくて最終日はまた「レ・ドゥ・マゴ」に行くつもりだったけれど、たまたま「カフェ・ド・フロール」の前を通りかかったときに一つだけテラス席があいているのを見つけた。愛想のよさそうなギャルソンに 「ここに座ってもいい?」と聞くと、笑顔で「どうぞ」と言ってくれ、親切な態度でホッとした。

ここもサルトルやボーヴォワールが通ったという、超有名店。今度は、テーブルに着くなりペーパーシートを敷いてくれた。コーヒーとクロワッサンとタルトタタンを注文。「クロワッサン」と言うと「クロワッスン?」と聞き返され、発音を覚えられた。

それにしても、めちゃくちゃ繁盛しているカフェだった。でも理由がわかるもん。ひとりぼっちのアジアン(私のこと)であろうが隣の席に座ったモデル風の美女であろうが、同じように接するギャルソン。店内の席からテラス席にかえたいというお客さまにも、嫌な顔ひとつせずテーブルをつくっていた(忙しいのに)。 自分の持ち場をきびきびと動き回るギャルソンの振る舞いも文化の一つだ。それをじっくり眺めながらひとりコーヒーを飲んでいた。いつまでも記憶に残るカフェだった。

日曜日のパリはお店が休み!カルチエ・ラタンの街歩き

「レ・ドゥ・マゴ」でお茶をしたあとは、カルチエ・ラタンまで気の向くままにお散歩だ。途中でリュクサンブール公園の近くにある雑貨店「マラン・モンタギュ(Marin Montagut )」に寄って、パリでの一期一会を楽しみたいと思っていた。

パリ6区サンジェルマン・デ・プレ界隈は落ち着いていて、人通りも少ない。観光客というより地元の人が通りを歩いている感じがして、パリという街の素顔を垣間見れる。「それにしても、歩いている人が少ないなぁ。みんな出かけないのかしら?」なんて思いながら、お店にたどり着くまで辺りをキョロキョロしながら歩き進めた。すると狭い通りに何やらすてきな本屋さんを見つけた。

窓辺に飾られたディスプレイがオシャレで絵になっている。フランスの本の表紙はいちいちオシャレだと思う。読めないけれど飾ったら絵になるものが多い。お土産にそんな一冊が見つかればいいなぁ、なんて思い、中に入ろうとしたら休みだった。「なんだぁ。残念だなぁ」と、また、再び目的地まで歩きだす。

10分ほど歩いただろうか。表にまで香ばしいパンのにおいが漂ってきて、吸い込まれるようにして店の中に入ってしまった。買わずに出るのは申し訳ないのだけれど、「このあとランチなの。ごめんなさい」して、出ちゃった。あとから調べてみたらバゲットが有名な「ラ・パリジェンヌ」というパン屋さんだった。そのお隣がお目当ての「マラン・モンタギュ」だ。

「やっと着いた!」と窓の外からお店の様子をうかがうと、なんだか薄暗い。「ええっ!ここまで来て休み?」「どうして?」と思って、はたと気がついた。「今日は日曜日だった」。日本では日曜日は商売の稼ぎ時なので休まないけれど、そういえば2日目に行ったパッサージュ「パノラマ」でも休んでいる店が目立った。

あの日は 11月1日で万聖節(ばんせいせつ)といって、フランスが定める祝日だった。旅をしていると曜日の感覚がなくなっていき、日曜日だと気づいていなかった。人通りが少ないのはそのせいかもしれない。諦めきれない私は、窓ガラスに貼りついて中の様子をウンと眺め尽くした。マダム通りにあるこのお店に怪しいオバチャンが未練を漂わせていた。

さて、悪いことばかりじゃない。雑貨店に費やしたであろう時間がぽっかりあいたのだ。隣の5区までそぞろ歩きを楽しもうじゃないか。目的があって探すのもいいけれど、たまたま見つけたときのほうが喜びは大きい。それが「サン・シュルピス教会」だった。

左右の塔が特徴的でノートルダム大聖堂と変わらぬ大きな教会なんだけれど、その前にある噴水の広場に引き寄せられたのだ。その美しい彫刻にしばらく見 とれてしまった。噴水から湧き出る水がベールのような美しさでなんだか気持ちが洗われるようだった。パリの美術館や教会は、予約していても入り口で並ばなきゃなら ないほどだが、素通りしてしまうような教会なのに、よく見ると威風堂々としてカッコイイ。

日曜日の静かな通りに、ときおり姿を見せる荘厳な建物たち。オデオン座、ソルボンヌ大学、国立中世美術館、サンテティエンヌ・デュ・モン教会、パンテオン ——。探してもいないのに次々とおでましになり、いちいち圧巻。なんてところだパリは!

※この記事は『ビバ!還暦 60歳海外ひとり旅はじめました』中道あん著(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。


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